透明資産とは?

【透明資産を見つけよう】「透明資産」経営の旗振り役と旗降ろし役~会社の空気感を左右するキーパーソンたちの特徴とは~

 

こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。

透明資産とは、業績に影響する空気感を意図的に設計し、それを経営戦略として運用する仕組みを指します。目には見えないものの、社員のモチベーション、生産性、ひいては企業の業績に深く影響を与えるこの空気感は、まさに経営における重要な資産と言えるでしょう。この透明資産を最大限に活かし、組織をあるべき方向へと導くためには、個々の社員、特にその言動が周囲に大きな影響を与えるキーパーソンたちの存在が不可欠です。彼らは、会社の空気感を好転させる「旗振り役」となることもあれば、意図せずとも淀ませてしまう「旗降ろし役」となることもあります。本稿では、この二つのタイプの社員が持つ特徴と、それぞれの言動が組織に与える影響についてお伝えしましょう。

―1、<旗振り役>ポジティブな空気感を醸成する透明資産経営の推進者

会社の空気感を好転させ、透明資産を育む「旗振り役」となる社員には、共通していくつかの特徴が見られます。彼らは単に仕事ができるだけでなく、その人間性やコミュニケーションスタイルを通じて、周囲に良い影響を与え、組織全体のエネルギーを高める存在です。

第一に、彼らは他者への深い配慮と敬意を常に持ち合わせています。これは、先に述べた仕事のお願いの仕方にも如実に表れます。ビジネスコンサルタントの山﨑武也氏が指摘するように、気持ちよく仕事を引き受けてもらえる人は、たとえ上司の立場であっても指示ではなくお願いという意識を持っています。相手の状況や負担を慮り、「今、お忙しいところ恐縮なのですが、こちらの件、少しお手伝いいただけますでしょうか」といった言葉遣いを選ぶのです。この姿勢は、脳科学的に見ても理にかなっています。人は、相手から尊重されていると感じると、脳内の報酬系が活性化し、協力したいというポジティブな感情が湧きやすくなります。逆に、高圧的な言葉や一方的な命令は、扁桃体を刺激し、防衛的、あるいは反発的な感情を引き起こすため、協力関係を築きにくくします。旗振り役は、無意識のうちに相手の心理に働きかけ、円滑な人間関係を築く土台を作っているのです。

第二に、彼らはコミュニケーションにユーモアや遊び心を取り入れることを躊躇しません。社会学者の瀬沼文彰氏が「ユーモアには心理的安全性を高めるメリットがある」と述べるように、適度なユーモアは職場の緊張を和らげ、社員が本音で意見を言いやすい雰囲気を作り出します。心理的安全性とは、「組織のなかで誰に対しても、自分の考えや気持ちを安心して発言できる状態」を指し、イノベーションやチームワークの向上に不可欠な要素です。例えば、新しいプロジェクトの初期段階で、誰もが躊躇するような突飛なアイデアが出たときに、旗振り役はそれを頭ごなしに否定せず、「面白いね、具体的にどうなるんだろう?」と笑顔で応じたり、あるいは自らも軽妙なジョークを交えながら、議論をオープンな方向へと促したりします。

 

スタンフォード大学のジェニファー・アーカー氏らの調査結果が示すように、ユーモアのセンスがあるリーダーは部下のモチベーションを27%高め、創造性に関わる課題を解決するチームの数を倍以上にします。これは、ユーモアが単なる笑いだけでなく、信頼感と安心感を醸成し、脳の創造性を司る領域を活性化させる効果があることを示唆しています。旗振り役は、このユーモアを駆使し、心理的なハードルを下げ、自由な発想が生まれる土壌を耕しているのです。

第三に、旗振り役は感謝の言葉を惜しみなく、そして具体的に表現します。「ありがとう」というシンプルな言葉は、人間関係における強力な接着剤です。ビジネス作家の臼井由妃氏が語るように、「感謝をきちんと伝える」ことは、相手に「自分の貢献が認められた」という喜びを与え、さらなる協力意欲を引き出します。ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・ギャロ氏の研究も、感謝が相手の自己肯定感を高め、協力的な行動を促すことを裏付けています。

 

旗振り役は、単に「ありがとう」と言うだけでなく、「〇〇さんの迅速な対応のおかげで、無事にクライアントとの調整ができました。本当に助かりました!」のように、何に対して感謝しているのかを具体的に伝えます。脳科学的にも、感謝の言葉を受け取った人の脳では、オキシトシンという幸福感を高めるホルモンが分泌されやすくなると言われています。これにより、受け取った側はポジティブな感情を抱き、その関係性をより大切にしようと意識します。旗振り役のこうした行動は、感謝の連鎖を生み出し、職場の信頼関係を深く強固なものにしていくのです。

そして第四に、彼らは他者の話や行動に対し、豊かなリアクションを取ります。これは、口数が多くない人であっても、いるだけで周囲に人が集まる理由でもあります。空気を良くする人は、相手の話を「聞いている」だけでなく、「受け止めている」ことを全身で表現します。笑顔で頷いたり、適切な相槌を打ったり、時には驚きや共感の表情を見せたりすることで、話し手は「自分の話が響いている」「理解しようとしてくれている」と感じ、安心して話を続けることができます。

 

心理学では、これを「アクティブリスニング」と呼び、相手との信頼関係構築に極めて重要だとされています。無表情や無反応な相手に話すのは、まるで壁に話しかけているようで、話し手は孤立感や不満を感じやすくなります。脳の視覚野は、相手の表情や仕草から多くの情報を読み取り、感情を認識します。旗振り役のポジティブなリアクションは、相手の脳に安心感を与え、コミュニケーションを円滑に進めるための非言語の合図として機能します。彼らは、意識的または無意識的に、相手が話しやすい「空気」をデザインしているのです。

これらの特徴を持つ旗振り役は、組織における透明資産を自ら体現し、周囲に伝播させていく存在です。彼らの存在が、社員一人ひとりの心理的安全性、エンゲージメント、そして創造性を高め、結果として組織全体の生産性と業績向上に貢献するのです。

―2、<旗降ろし役>空気感を淀ませる透明資産経営の阻害要因

一方で、残念ながら組織の空気感を淀ませ、透明資産の育成を阻害してしまう「旗降ろし役」となる社員も存在します。彼らは意図せずとも、その言動が周囲にネガティブな影響を及ぼし、士気を低下させ、時には組織全体の健全な機能に悪影響をもたらすことがあります。

旗降ろし役の第一の特徴は、他者への配慮や敬意の欠如です。彼らは、仕事を依頼する際に、相手の状況を考慮せず、一方的かつ高圧的な指示を出しがちです。「資料を今すぐ作成しろ」「なぜできていないんだ」といった言葉は、相手に不快感やプレッシャーを与え、協力する意欲を削ぎます。このようなコミュニケーションは、相手の脳内のストレスホルモン(コルチゾールなど)の分泌を促し、ネガティブな感情を増幅させます。心理学的に見ても、人は強制されたり、侮辱されたりすると、反発心や無力感、敵意を抱きやすくなります。旗降ろし役の言動は、無意識のうちに人間関係にヒビを入れ、信頼関係の構築を妨げているのです。

第二に、彼らのコミュニケーションはユーモアやポジティブな要素に乏しい傾向があります。彼らはしばしば真面目すぎる、あるいは皮肉や批判的な発言が多く、職場の雰囲気を重くする原因となります。心理的安全性が低い職場では、社員は自分の意見を言うことを躊躇し、萎縮してしまいます。旗降ろし役が、誰かのアイデアを即座に否定したり、「そんなこと、できるわけがない」と決めつけたりする言動は、他の社員の創造性を摘み取り、自由な発想を抑圧します。

 

脳科学的にも、ネガティブな感情やストレスは、脳の思考を司る前頭前野の機能を低下させ、柔軟な発想や問題解決能力を阻害することが示されています。ユーモアの欠如は、単に会話が弾まないだけでなく、脳の働きにも悪影響を及ぼし、チームの活力を奪う結果となるのです。

第三に、旗降ろし役は感謝の表現が極めて少ない、あるいは全くないという特徴が見られます。誰かに助けてもらっても、「当たり前だ」と受け取ったり、口頭で感謝を伝えなかったりすることがよくあります。彼らにとっては、他者の貢献は「当然」であり、特別な評価に値しないものと認識されているのかもしれません。しかし、感謝の言葉は、相手のモチベーションを維持し、次への行動を促すための重要な報酬です。感謝されないことは、人は自分の労力や貢献が無価値であるかのように感じ、次第にやる気を失っていきます。

 

心理学の「公平理論」によれば、人は自分の投入(努力)と報酬(感謝や評価)のバランスが取れていると感じると満足します。このバランスが崩れると、不公平感や不満が生じ、エンゲージメントの低下や離職に繋がりかねません。旗降ろし役の感謝の欠如は、社員間の信頼関係を蝕み、貢献意欲を低下させる直接的な要因となります。

そして第四に、彼らは他者の話や行動に対するリアクションが乏しい、あるいはネガティブなものです。話しかけても表情を変えず、相槌も打たず、まるで上の空であるかのように見えることがあります。あるいは、相手の発言に対して、すぐに否定的な意見を述べたり、不機嫌そうな態度を取ったりすることもあります。このようなリアクションは、話し手に「この人には何を話しても無駄だ」「話しかけたくない」という感情を抱かせ、コミュニケーションの壁を作り出します。

 

脳は、相手の非言語情報から膨大な感情や意図を読み取ります。旗降ろし役の無反応やネガティブなリアクションは、相手の脳に不快感や警戒心を抱かせ、コミュニケーションの断絶を招きます。結果として、周囲は彼らとの関わりを避けようとし、孤立を生み、職場の「空気」を重く淀ませてしまうのです。

―3、透明資産経営におけるキーパーソンへのアプローチ

これらの「旗振り役」と「旗降ろし役」は、組織の透明資産の運用において、文字通り光と影の存在です。旗振り役は自然とポジティブな循環を生み出し、旗降ろし役は意図せずともネガティブなスパイラルを誘発します。では、企業はこのキーパーソンたちにどのようにアプローチすべきでしょうか。

まず、旗振り役に対しては、その貢献を明確に認識し、積極的に評価することが重要です。彼らの存在が組織にもたらす計り知れない価値を経営層が理解し、例えば社内表彰やリーダー育成プログラムへの抜擢など、具体的な形で報いることで、彼らのモチベーションを維持し、その影響力をさらに拡大させることができます。彼らが持つ透明資産の源泉を醸成するスキルを言語化し、社内で共有する研修などを実施することも有効でしょう。

一方、旗降ろし役に対しては、彼らが意図せずとも組織に悪影響を与えている可能性を、個別にかつ慎重にフィードバックする必要があります。彼ら自身が悪意を持っているわけではなく、自身のコミュニケーションスタイルや言動が周囲にどう受け取られているかを認識していないケースも少なくありません。心理学の認知的不協和の解消を促すため、具体的な行動例を挙げながら、その行動が周囲に与える影響について客観的に伝え、改善の機会を提供します。

 

例えば、1on1ミーティングの場で、「〇〇さんのあの時の発言は、周りにこのように受け取られて、少し意見が出しにくい雰囲気になってしまったようだよ」といった具体的なフィードバックを行い、改善のための具体的な行動(例:相手の目を見て話す、まずは相手の意見を受け止める練習をするなど)を共に考えることが求められます。脳科学的には、新しい習慣を形成するには、繰り返しとポジティブな強化が有効です。小さな変化でも良いので、改善の兆候が見られた際には、それを具体的に褒め、肯定的なフィードバックを与えることで、より望ましい行動へと促すことが可能です。

 

また、組織全体として、透明資産経営の重要性を全社員に啓蒙し、ポジティブな空気感を醸成する文化を育むことも不可欠です。心理的安全性に関するワークショップ、感謝を可視化する仕組み(サンクスメッセージボードなど)、ユーモアを推奨する場の設定(カジュアルなランチ会や社内イベント)などは、全社員が「旗振り役」の意識を持つための有効な手段となります。組織風土とは、個々の社員の行動が積み重なって形成されるものです。経営層が透明資産を経営戦略の柱として位置づけ、その重要性を一貫して発信し続けることで、社員一人ひとりが自らの言動が空気感に与える影響を意識し、ポジティブな変化へと繋がっていくでしょう。

―4、まとめ

会社の空気感は、単なる感情論ではなく、企業の業績を左右する重要な透明資産です。この透明資産を育み、最大限に活用するためには、その「旗振り役」となる社員の存在が不可欠であり、彼らが持つ「他者への配慮」「ユーモア」「感謝」「豊かなリアクション」といった特性を組織全体で認識し、奨励していく必要があります。同時に、意図せずして空気感を淀ませてしまう「旗降ろし役」に対しても、建設的なフィードバックと改善の機会を提供し、彼らがポジティブな影響を与えられるよう支援していくことが求められます。

透明資産経営は、経営層が旗を振るだけでなく、社員一人ひとりが自らの言動を意識し、互いに協力し合うことで初めて機能します。企業の未来は、目に見えない空気感という透明資産をいかにデザインし、運用していくかにかかっていると言っても過言ではありません。旗振り役の力を最大化し、旗降ろし役の意識を変えることで、組織はより強く、より魅力的なものへと変貌を遂げ、持続的な成長を実現できるでしょう。

 

―勝田耕司

 

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