新型コロナウィルス禍の終息と、それに伴う経済活動の復活によって、日本では未曾有の人手不足が続いています。
2023年6月の有効求人倍率は全国平均で1.31倍。中でも外食業界は3倍を超える状況です。人が集まらないために店を開けられずビジネスチャンスを逃すだけでなく、そのために閉店に追い込まれる例もあります。
人を集めるためには、他産業と比べて遜色ない労働条件を提示する必要があると言われます。
ようは高い給与を支払い、肉体的に楽で休みも多くとれる職場にしなければならないというわけですが、飲食店という商売の特性を考えれば難しいのが現実です。
昭和の時代のようにガンバリズムを強いることは論外としても、ある程度の肉体的・精神的負荷は避けられないものです。そのうえで、お客様にご満足いただくところに飲食店をやる醍醐味があるとも思います。
労働条件の向上が不可欠なことは言うまでもありませんが、より大切なことは、働く人たちが仕事を通じて喜びを感じることです。
この喜びとは「幸福感」とも言い換えられます。そして、幸福感は報酬や休暇の多さによってのみ得られるものではありません。
以前にこのコラムでもお伝えしたことですが、人が幸福感を得る最大の要因は「自分という存在が認められた」と感じることです。
企業などの組織においては、その組織を構成するすべての人々が「自分はこの組織に貢献できている」と感じることこそが大切なのです。
そのような組織をつくるためには、経営者や店長など組織運営に責任を持つ人が、働く人すべての存在を認めてあげることが不可欠です。わかりやすく言えば、しっかりと面倒を見ることです。
経験が浅い人には寄り添い、きちんと教育をして、その成長を手助けする。仕事の面だけでなく、時には個人的な悩み事の相談に乗ってあげる必要もあるでしょう。
そのようにして、何でも言い合える関係をつくっていってこそ、職場に幸福感を生み出すことができます。
飲食店には、そのような職場をつくるうえで多くの強みがあります。たとえば賄い。営業開始前、あるいは閉店後の賄いはスタッフ全員が揃ってとる店も多く、そうした店は賄いの場を貴重なコミュニケーションの機会と位置づけています。
仕事の出来を誉め合ったり、気づいた点を指摘したり、改善方法を話し合ったり。そこからスタッフ同士の精神的な結びつきが生まれ、それが職場の幸福感を生んでいきます。
そうした店は離職率が低く、スタッフが長く勤めることによって商品もサービスのレベルも向上していくものです。
私が運営している2店舗でも、社員・スタッフの関係性が強いお店は「ここで働きたい!」という常連のお客様からの応募が続いています。募集費ゼロです。
いわば「家族的なつながり」。生業店にある、この飲食店本来の強みを取り戻すことこそが、人手不足克服への第一歩だと思います。
ー勝田耕司
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