前回のコラムで、人手不足を克服するために大切なのは職場で「何でも言い合える関係」をつくっていくことであるとお話ししました。
人が集まらない、すぐに辞めてしまう職場は、逆に「物が言えない」状況になってしまっています。
とくに、組織の下位者が上位者に対して何も言えず、その命令や指示をただ聞くだけになっている。そうした職場のガバナンスを称して「恐怖政治」といいますが、それが有効に機能せず時には最悪の結果をもたらすことは、いま世間を騒がせているビッグモーターの不正事件を見ても明らかです。
トップが掲げるビジョン(最終目標)に向かって、組織を構成する一人ひとりが自分の役割をしっかりと果たす。全員がお互いの存在を認め、力を出し合い助け合いながらビジョン実現に向けて進んでいく。そのようになっていてこそ本当に強い組織といえます。
ビッグモーターの場合は、組織が正反対であったばかりか、ビジョンも全員が共感できるものではなかったのでしょう。目的は単なるお金儲けであり、だからこそ組織の構成員も「上に認められる」ことを最優先に考え、それが不正につながったのではないでしょうか。
同じように自動車を扱う会社であっても、さすがに世界のトップ企業は違うと思わされたのがトヨタ自動車です。
先ごろ、自己都合で離職した社員を再雇用する取り組みを本格的にスタートすると発表しました。退社後に他社でさまざまな経験を積んで成長した元社員を貴重な人材と位置づけて、退社後も関係を継続するためのツールや機会を用意。
元社員のコミュニティサイトを設け、採用ホームページから登録するとアプリで他の離職者や現役社員と交流できるほか、トヨタ自動車から社内報や現役社員のインタビューなど最新情報が届くというユニークなサービスもあります。
そうした人の中から希望者を選抜して再雇用しますが、この採用方法を「アルムナイ(卒業生)採用」と称し、人材対策の新しい柱にしたい考えです。
人をお金儲けのための道具と見ているビッグモーターとは、人材に対する考え方が根本的に違うことがわかります。そして、その違いを生んでいるのはビジョンの差です。
トヨタ自動車は自社を単なる自動車メーカーではなく、移動サービス全般を手掛ける「モビリティカンパニー」と位置づけ、その活動を通じてより豊かな社会を実現することをビジョンとしています。それには、多様な能力を持った人材を集める必要がある。アルムナイ採用はその一環なのです。
誰もが共感でき、夢を持てるビジョンを掲げ、その実現のために全員の力を結集する。そのような組織をつくることこそ、未曾有の人手不足を克服し、社会貢献度を高めることにつながるのです。
ー勝田耕司
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