エレベーターの沈黙が教えてくれた、組織の本音と空気の設計力
カフェでコーヒーを飲みながら、
窓の外をぼんやり眺めていました。
こういう時間があると、
経営の話は、机の上よりも
日常のワンシーンから立ち上がってくることが多い。
今日は、
先日とあるビルで体験した
「エレベーターの沈黙」の話をしようと思います。
ほんの数十秒の出来事です。
でも、あれほど濃く
組織の空気を感じた時間は、
そう多くありません。
―エレベーターに乗った瞬間、空気が変わる
その日は、
ある企業を訪問するため、
オフィスビルのエレベーターに乗りました。
朝の時間帯。
エレベーターの中には、
スーツ姿の人が数人。
誰もスマホを見ていない。
誰も話していない。
視線は、
上か、下か、
どこか宙を見ている。
「……」
沈黙。
気まずい、と言えば気まずい。
でも、ただ静かなだけではない。
重たい。
音がないのに、
圧を感じる。
エレベーターが上に上がるにつれて、
その空気が
どんどん濃くなっていく感覚がありました。
―別のビル、別のエレベーター
数日後、
別の会社を訪ねたときのこと。
同じように、
朝の時間帯。
同じように、
スーツ姿の人たち。
でも、
エレベーターの空気がまるで違う。
「おはようございます」
小さな声だけど、
誰かがそう言う。
別の人が、
軽く会釈する。
それだけ。
会話はない。
雑談もない。
でも、
空気は軽い。
沈黙なのに、
息苦しくない。
この違い、
何だと思いますか。
―エレベーターは、組織の無意識が出る場所
エレベーターは、
会社の中でも、
とても不思議な場所です。
・会議室でもない
・デスクでもない
・評価される場でもない
でも、
社員同士が
素の状態で並ぶ。
だから、
組織の無意識が、
そのまま空気として出る。
・緊張
・遠慮
・諦め
・警戒
あるいは、
・安心
・信頼
・余白
どちらが流れているかで、
沈黙の質が変わる。
―沈黙が悪いわけではない
ここで、
一つハッキリ言っておきます。
沈黙=悪
ではありません。
むしろ、
成熟した組織ほど、
無駄な会話は少ない。
問題は、
その沈黙が何でできているか。
・緊張で固まっている沈黙
・萎縮で凍っている沈黙
・諦めで閉じている沈黙
これらは、
確実に組織を弱らせます。
一方で、
・安心して言葉を選んでいる沈黙
・無理に話す必要がない沈黙
・黙っていても分かり合えている沈黙
これは、
とても強い透明資産です。
―心理的安全性は「仲良し」とは違う
最近、
「心理的安全性」という言葉を
よく耳にします。
でも、
現場で話を聞いていると、
誤解されているケースが多い。
・何でも自由に言える
・否定しない
・仲良くする
これ、
心理的安全性ではありません。
エレベーターで、
誰も何も言えず、
ただ無難にやり過ごしている。
これも、
一見すると「平和」に見える。
でも、
内側では、
「余計なこと言わない方がいい」
「波風立てない方がいい」
そんな空気が流れていたら、
それは安全ではない。
静かな抑圧です。
―社長の空気は、エレベーターに出る
ここが、
経営者にとって
一番大事なポイントです。
エレベーターの空気は、
社長の空気を
ほぼそのまま映しています。
・朝、どんな表情で出社しているか
・不機嫌なとき、どう振る舞っているか
・意見を言われたとき、どう反応するか
これらが、
社員の無意識に蓄積される。
そして、
言葉のない場所で、
一気に表に出る。
エレベーターで、
社員が黙る会社。
それは、
「社長の前で黙る癖」が
染みついている可能性が高い。
―空気は「何もない時間」にこそ表れる
会議中は、
みんな話します。
朝礼でも、
発言します。
でも、
それは「役割の時間」。
エレベーターは違う。
・評価されない
・記録されない
・目的がない
だからこそ、
本音の空気が出る。
経営でも同じです。
・トラブルが起きていないとき
・数字が安定しているとき
・特に事件がないとき
この「何もない時間」の空気が、
実は一番重要。
ここが濁っている会社は、
いざというとき、
必ず崩れます。
―話さない理由を、社長は知らない
エレベーターで、
誰も話さない会社。
その理由を、
社長自身が
分かっていないことが多い。
・忙しいから
・朝だから
・みんな真面目だから
違います。
言わない方が安全だと、学習している。
これは、
誰かが悪意を持って
つくったものではない。
日々の、
・ため息
・無言の圧
・「今それ言う?」という空気
そうした小さな積み重ねの結果です。
―透明資産は「話している量」では測れない
よくある誤解があります。
「うちは会話が多いから大丈夫」
「うちは賑やかな会社だから」
それだけでは、
判断できません。
本当に見るべきは、
・言いにくいことが言えるか
・違和感を表に出せるか
・沈黙を破っても、傷つかないか
エレベーターで、
誰かが一言、
軽く声をかけられるか。
それができる組織は、
かなり健全です。
―エレベーターの沈黙を、設計できるか
ここで、
透明資産経営の話に戻します。
空気は、
偶然に任せるものではない。
エレベーターの沈黙すら、
設計できる。
・社長が、先に挨拶する
・役職に関係なく、目を合わせる
・小さな声かけを、日常に組み込む
大きな制度はいりません。
むしろ、
制度で縛ると、
空気は死にます。
必要なのは、
社長自身の「在り方」。
―強い会社ほど、沈黙がやさしい
私が見てきた、
業績が安定している会社、
人が辞めない会社。
共通しているのは、
沈黙がやさしい。
・無理に話さなくていい
・黙っていても責められない
・でも、話したら受け止めてもらえる
この感覚。
エレベーターで、
静かに立っているだけなのに、
息がしやすい。
それは、
空気が味方になっている証拠です。
―コーヒーを飲み干しながら
カフェで、
最後の一口を飲みながら、
そんなエレベーターの光景を思い出していました。
経営は、
派手な施策よりも、
こうした無言の時間に
本質が宿る。
あなたの会社のエレベーターは、
どんな沈黙でしょうか。
重たいですか。
それとも、
静かで、やさしいですか。
その答えは、
今の業績よりも、
これからの未来を
正直に映しています。
透明資産は、
エレベーターの中にも、
確かに存在しています。
気づけるかどうか。
そして、
設計できるかどうか。
そこが、
経営の分かれ道です。
―勝田耕司
<透明資産とは?>
業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆が深まり、従業同士の信頼関係が築きあげられ、商品・サービスの独自性が強化されます。そして、持続的成長につながる経営の仕組です。















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