時計の針は午前二時を回っていた。
地方での仕事を終え、静まり返った高速道路を走る。
疲労がじわりと眼の奥に溜まり始めた頃、私は光の島のように浮かび上がるパーキングエリアへと滑り込んだ。
自動販売機の明かりと、数台の乗用車。
そのさらに奥、大型車両専用のスペースには、何台もの巨大なトラックが、まるで深い眠りにつく巨獣のように並んでいた。
ー「気配」が語る仕事の質
車を降り、冷たい夜気を吸い込む。
ふと、一番端に停まっていた一台の大型トラックに目が留まった。
そのトラックは、驚くほど美しかった。
長距離を走ってきたはずなのに、車体には泥ひとつ跳ねておらず、アルミのホイールは街灯を反射して鈍い輝きを放っている。
運転席のカーテンはきっちりと閉められ、エンジン音は聞こえない。
だが、その佇まいからは、持ち主がこの「相棒」をどれほど大切に扱い、自らの仕事にどれだけの誇りを持っているかという「気配」が濃密に漂っていた。
誰も見ていない深夜のパーキング。
そこでひっそりと、しかし凛として存在するその姿に、私は透明資産の極致を見た気がした。
ー「孤独な覚悟」が組織を支える
長距離ドライバーという仕事は、究極の「孤独」との戦いだ。
誰に監視されるわけでもなく、ただ目的地へと荷物を運ぶ。
そのプロセスにおいて、車体を美しく保つことも、丁寧な運転を心がけることも、実はすべて「自分との約束」でしかない。
経営においても同じことが言える。
社長の仕事、あるいは現場の一人ひとりの仕事の本質は、誰にも見られていない「孤独な時間」にこそ現れる。
誰も見ていないところで、どれだけ丁寧に書類を揃えるか。
誰も見ていないところで、どれだけ深くお客様の未来を案じるか。
その「孤独なプライド」の集積が、やがて組織全体の「空気」となり、お客様が触れた瞬間に「ここは他とは違う」と感じさせる決定的な差、すなわち『透明資産』となるのだ。
ー誇りは「伝染」する
想像してみる。あのトラックが所属する運送会社を。
おそらく、あのドライバー一人だけが突出しているのではない。
彼のような「誇り」を持った社員を育む、あるいは彼のような人間が「ここで働き続けたい」と思えるだけの、目に見えないルールや信頼が、その組織には流れているはずだ。
多くの経営者が「社員のモチベーション」に頭を悩ませる。
しかし、モチベーションとは与えるものではなく、こうした「自尊心」が守られる空気の中で、自ずと湧き上がってくるものだ。
社長が自らの「孤独」を引き受け、自らの仕事にプライドを持っているとき、その空気は言葉を超えて従業員へと伝染していく。
ー「見えないルール」の威力
私は、自分の車に戻りながら、暗闇に佇むトラックをもう一度振り返った。
私の組織には、こうした「孤独なプライド」を推奨する文化があるだろうか。
「効率」や「スピード」の名のもとに、こうした「美学」を切り捨ててはいないだろうか。
空気をつくるのは、華やかなイベントではない。
こうした静かな、しかし力強い「個の在り方」を尊重し、認め合う場を調律することだ。
透明資産を経営に活かすということは、こうした一人ひとりの「プライドの総和」を、会社の成長エンジンへと変換することに他ならない。
ー夜明け前の静かな誓い
再びエンジンをかけ、本線へと戻る。
バックミラーの中で、あの美しいトラックの影が遠ざかっていく。
透明資産は、光の当たる場所だけで作られるのではない。
深夜のパーキングのように、誰の目にも触れない場所で、コツコツと磨き上げられるものこそが、本物の価値を持つ。
私も、明日からの仕事において、誰に見られるためでもない「自分のプライド」をもう一度問い直してみようと思う。
その一歩が、組織の空気を清め、未来を切り拓く唯一の道だと信じて。
ー勝田耕司














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