社員の心が動く瞬間|給与や制度を超えた空気改革の威力
「勝田さん、正直、一番頭を悩ませているのが人の課題なんですよ。採用しても定着しない、幹部が育たず、現場に任せられない。真面目にやってはいるが、社員がイキイキしていない …。給与や研修に投資しても、なぜか根本的な解決にならない。これは、やはり空気感のせいなんでしょうか?」
「ええ、まさにその通りです、山下社長。多くの経営者が、人の課題を採用手法や人事制度だけで解決しようとしますが、実はそれらは目先の成功や一時的な効果しか得られません。その根源には、見えない資産=透明資産が正しく機能していないという構造的な原因があるかもしれません。」
「でも、どうすればいいんでしょう。社員にやる気が足りないのはリーダーの責任だ、と自分を責めてしまうこともあって…。」
「実は、それは山下社長のせいではありません。原因は、目に見えない領域である空気感という経営資源にあったのです。」
今回のコラムでは、給与や制度を超えて、社員の心を動かし、定着・育成を劇的に変える空気改革の威力について、具体的な事例と科学的な視点を交えながらお話ししましょう。
―1.組織は理念だけではなく空気で動く
多くの企業が掲げる理念やビジョン。しかし、それが形骸化し、社員に伝わっていないと感じる経営者は少なくありません。
なぜ、社員は理念を語っても動かないのか?それは、言葉よりも先に、空気が伝わってしまっているからです。
◎脳科学が示す「在り方」の影響力
認知科学者のアラン・ペイズらの研究によれば、私たちはコミュニケーションにおいて、非言語情報(態度、表情、声のトーンなど)から93%もの影響を受けていると言われています。これは、経営者がどんなに立派な言葉を語っても、その背後にある空気感が重たければ、社員はそのネガティブな非言語情報を受け取ってしまうことを意味します。
社員が真面目なのに、なぜかイキイキしていない状態は、まさに社長の想いが空気として、ポジティブに伝わっていないサインです。
私が提唱する透明資産とは、目に見えない空気感を意図的に設計する仕組み 。社長の想い、会社の理念、社内の文化、お客様との信頼…これらを構造化させて、偶発的ではなく意図的に空気感を設計することです。この空気を整えることで、組織は驚くほど変化し、持続的に成長し、競争力も高くなります 。
―2.教育改革の前に空気改革が必要な理由
多くの企業が人材育成のために、著名な講師の研修を導入したり 、教育プログラムを刷新したりしますが、それでも離職率が下がらないことがあります 。なぜでしょうか?
それは、教育やノウハウを活かせる土壌(空気)がないからです。
透明資産の仕組5つの1つある教育の本質は、人を育てるのではなく、空気を育てるという点にあります 。
◎属人的マネジメントからの脱却
人を育てようとする教育改革は、ともすれば属人的なマネジメントに陥りがちです 。しかし、空気改革では、以下の構造をつくります。
①全員を変えようとしない
まず、組織内の2割のキーパーソンで空気を動かす仕組みを設計します 。このキーパーソンが発するポジティブな空気と行動が、組織全体に波及します。
②社長講師制の衝撃的な効果
外部講師に頼るのではなく、社長自身の信念やビジョン、判断軸を、幹部やリーダーと直接共有する場をつくります(社長塾)。これは空気の温度差をなくし、理念が形だけのものではないことを、社長の姿勢そのもので伝えます。実際に、離職率35%→8%に改善したS社では、「社長講師制」が衝撃的な効果を生みました 。
③教育の成果は「表情」に出る
目に見えない成長を、社員の表情という非言語情報で見える化します 。社員がイキイキと働く職場は、お客様が何度でも訪れたくなる空気感を生み出し、企業の業績をじわじわと押し上げていきます 。
社員の表情が変わることこそが、組織が内側から変わった何よりの証拠なのです。
―3.なぜ「空気」を整えると人が集まり、定着するのか?
人材獲得競争が激化する現代において、給与や待遇面だけで優秀な人材を惹きつけ、定着させるのは至難の業です 。より良い条件を提示する競合他社に、社員はすぐに流れてしまう可能性があります 。
人が集まり、定着する真の理由は、給与や待遇面ではない独自の魅力、つまり透明資産が醸成する働き甲斐のある社内空気感にあります 。
◎給与以上の価値で選ばれる構造
透明資産経営の実践では、会社独自の働きがいと魅力を最大限に引き出すために、社内の空気感と社長や社員の個性や想いに焦点を当てます。
- 社長、社員の顔が見える化
社員のリアルな声や働く様子を積極的に公開したり、社長の経営哲学や人柄が伝わるストーリーを発信したりすることで、求職者は会社の空気感を肌で感じ、ここでなら自分らしく働けそうだ!と強く感じるようになります。
- ポジティブな雰囲気の設計
日々の業務の中で社員が感じる達成感、連帯感、認められている感覚、新しい挑戦を応援するポジティブな雰囲気など、目には見えないけれど、働く人にとってかけがえのない価値となる良い空気感を明確にします 。
- ギャップの解消
事前に感じた「空気感」と入社後のギャップが少ないため、エンゲージメントが高く、定着率の向上へと繋がります 。
実際に、透明資産経営実践する美容室チェーンのR.S社長は、社員の態度が変わり、売上も自然に変わったと語り、離職率がゼロになっただけでなく、紹介での入社が続いているといいます。これは、会社が単なる労働力としてではなく、一員として大切にされていると感じる心地よい空気感が整った結果です 。
―4.社長の弱みが組織を動かす最強の強みに変わる瞬間
透明資産の仕組みづくりは、経営者の在り方と深く向き合うプロセスでもあります 。
特に重要なのは、社長のストーリーを経営に反映させるプロセスです。経営は、社長の物語の延長線上にあるからです。
なぜ、数字の前に物語が必要なのか?それは、共感が連鎖する経営構造をつくるためです 。
◎弱みは共感を生む『透明資産』の源泉
社長のストーリーが定着した瞬間、離職率が半減した実例もあります 。興味深いのは、その物語の根源が、必ずしも成功体験や完璧なリーダー像ではないという点です。
人は、完璧なものよりも、弱さや苦難を乗り越えてきた物語に強く共感します。
・社長の原体験から透明資産の源泉を抽出し、ブランドとして昇華させた事例 。
・なぜ、社長の弱みが、組織を動かす強みへと転換されるのか?
それは、弱みが人間味となり、信頼と共感を生むからです。社員は、社長の過去の失敗や苦悩を知ることで、自分も頑張れる、この会社は私の人生そのものだ、と自然に感じ、一体感が生まれます 。
この社長の在り方を軸に、社員が動き出す空気感を設計することこそが、属人的な経営からの脱却であり、持続可能な組織成長を支える本質的なアプローチなのです 。
―5.「空気」を軽視する経営者の末路
最後に、この空気感を軽視し、目先の手法だけに多額の投資をしていくとどうなるか 、という厳しい現実を再確認しましょう。
・現場と経営が断絶し、社員は言われたことだけを淡々とこなすようになる。
・頑張っているのに、社員が疲れて辞めていく。
・理念も文化も共有されず、考える力が育たない組織が出来上がっている。
・社内に気を使う人はいても、気を利かせる人が育たない。
・結局、目先の売上を上げれば何をしてもよい、という風潮がまん延する 。
空気の設計を怠ることは、単なる機会損失ではありません。それは、組織を内側から蝕み、やがて足並みが揃わず、戦略が空回りする、組織の崩壊につながるのです。
透明資産を導入する経営者こそ、これからの時代に必要とされる存在です 。経営の土台である空気感を整え、社員とお客様が共に豊かになる未来を築いていきましょう。
「勝田さん、ありがとうございます。モヤモヤしていた不安の正体が明確になりました。給与や研修を増やすことよりも、まずは自分が発する空気感に責任を持つこと。そして、自分の原体験を、社員が共感できる物語として経営に落とし込む仕組みが必要だと痛感しました。」
―勝田耕司
<透明資産とは?>
業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆が深まり、従業同士の信頼関係が築きあげられ、商品・サービスの独自性が強化されます。そして、持続的成長につながる経営の仕組です。














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