皆さん、こんにちは、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
私たちは日々の生活の中で、目には見えないけれど、確かに存在する大切なものに囲まれて生きています。その中でも、特に組織の未来を左右する大きな力を持っているのが、その場の「空気」、そしてそれを形づくる「透明資産」です。
そして、この透明資産を育み、さらに上の次元へと昇華させていく上で、絶対に避けて通れないテーマが「信頼」と「信用」なんです。
考えてみてください。人は誰だって、「自分を信頼してほしい」という、ごく自然な欲求を持っていますよね。仕事で成果を出したい、誰かの役に立ちたい、そして、その努力や人柄を認めて「この人なら大丈夫だ」と信じてもらいたい。これは、人間の根源的な欲求の一つだと私は思っています。
でも、この「信頼してほしい」という欲求を満たすために、どうすればいいんでしょう? 闇雲に「私を信じて!」と叫んだところで、人はなかなか信じてくれないものです。実は、この「信頼」という尊い感情は、ある土台の上にしか成り立たないんです。その土台こそが、「信用」なんですよね。
今回は、この「信頼」と「信用」について、その本質的な違いから、どうやって「信用の積み重ね」が「信頼」へと変わっていくのか、そしてこれらをどう組み合わせて組織マネジメントに活かし、さらには日々の生活の中でどう大切に育んでいくべきなのかを、具体的なエビデンスも交えながら、たっぷりとお話ししていこうと思います。
―「信頼」と「信用」・・・似て非なる、その本質、そして昇華のプロセス
まず、多くの方が混同しがちな「信頼」と「信用」の違いから、改めて明確にしていきましょう。
「信用」とは?
「信用」とは、過去の実績、データ、あるいは具体的な行動といった「根拠」に基づいて、「この人は期待通りにやってくれるだろう」と判断することを指します。いわば、論理的、理性的な過去の実績と根拠に基づく判断、評価と言えるでしょう。
例えば、
「あの会社は創業以来一度も納期を破ったことがないから信用できる」
「この人は過去に〇〇というプロジェクトを成功させているから、新しいプロジェクトも任せられるという信用がある」
「金融機関は、個人の返済履歴や資産状況に基づいて、融資の信用度を測る」
「Aさんは、ここ3年間の営業成績と後輩の育成する意識、会社への忠誠心を鑑みると昇進に値する」
このように、「信用」は、目に見える証拠や裏付けある行動、周囲からの声があって初めて成り立ちます。私たちは、その人の経歴や会社の財務状況、これまでの成果といった「エビデンス」を見て、「これなら大丈夫だろう」と判断するわけです。
言ってしまえば、「信用」は後からでも失いやすいものです。一度でも約束を破ったり、期待を裏切ったりすれば、積み上げてきた信用はあっという間に崩れ去ってしまう可能性があります。だからこそ、この「信用」は、日々の地道な努力と結果の積み重ねが本当に大切なんですよね。
「信頼」とは?
一方で「信頼」とは、根拠がなくても、あるいは根拠が不十分であっても、「この人ならきっと大丈夫」「きっと良い方向に導いてくれるだろう」という未来への期待や、相手の人柄、誠実さ、価値観といった「感情」に基づいた関係性を指します。これは、未来への期待と感情に基づく関係性であり、より情緒的、人間的な繋がりと言えるでしょう。
例えば、
「あのリーダーは、たとえ困難な状況でも、必ず私たちを導いてくれると信頼している」
「友人が何も言わなくても、彼の言葉を信頼して、一緒に新しいことに挑戦しようと思う」
「この新入社員はまだ実績はないけれど、その真摯な姿勢と潜在能力を見て信頼できると感じた」
「信頼」は、実績よりも、むしろ相手の「意図」や「人柄」、そして「未来への可能性」に重きを置きます。具体的な根拠がなくても、「なぜかこの人なら」と感じさせる力です。これは、時間をかけて育まれるものであり、一度築かれると多少の失敗では揺らぎにくい、非常に強固な絆となり得ます。
―信用の積み重ねの先に「信頼」がある
ここが本当に大切なポイントです。私たちが「信頼してほしい」と願うとき、まずすべきことは、地道に「信用」を積み上げていくことです。
想像してみてください。ある人が「私を信じてください!」とどれだけ熱弁しても、もし彼がいつも約束を破ったり、言動がコロコロ変わったりする人だったら、皆さんはどう感じますか?おそらく、「信用できない」と感じますよね。その状態では、「信頼」という感情は芽生えようがありません。
しかし、もしその人が、小さな約束でも必ず守り、言ったことを着実に実行し、常に誠実な姿勢を見せ続けていたらどうでしょう? 最初は「この人は信用できるな」という感覚から始まります。そして、その「信用」が何度も何度も積み重なっていくうちに、いつの間にか「この人なら、たとえ何かあったとしても、きっと最善を尽くしてくれるだろう」「この人の言葉には、実績以上の重みがある」と感じるようになる。
そう、「信用」の積み重ねが、やがて「信頼」へと昇華していくんです。「信用」が、私たちを評価する「点」だとしたら、「信頼」は私たちを包み込む「面」のようなものかもしれません。点と点が線になり、線と線が重なり合って面となるように、日々の「信用」という点を一つ一つ丁寧につけていくことで、やがて強固な「信頼」という大きな絵が完成する。それが、組織の「空気」を温かくし、透明資産を揺るぎないものにするプロセスなんです。
―「信頼」と「信用」を組み合わせた組織マネジメントにより透明資産が昇華する
この「信用」の土台の上に「信頼」を築いていくという視点を、組織マネジメントにどう活かすか。これが、透明資産を最大限に引き出し、さらに上の次元へと昇華させていく鍵となります。
- 「信用」で基盤を築き、「信頼」で関係性を深める
組織を健全に運営していくためには、まず「信用」の基盤が不可欠です。
- 約束を守る(納期、品質、予算)→社内外問わず、一度決めたことは必ず守る。もし
変更が生じる場合は、速やかに誠実に伝える。
②ルールや規範を遵守する→組織のルール、社会のルールを守ることで、公平性と透明性が保たれ、メンバーが安心して働ける土台ができる。
③透明性のある情報開示を行う→会社の状況や決定プロセスを可能な限りオープンにすることで、不信感を生まない。
④個人の責任を果たす→自分の役割と責任を明確にし、きちんと果たし続ける。
これらは、組織メンバー一人ひとりが「信用」されるための基本的な行動であり、組織全体が外部から「信用」されるための土台となります。この「信用」がなければ、組織は成り立ちません。例えば、給料が期日に支払われない会社を誰が信用するでしょうか?しかし、単に「信用」があるだけでは、組織の「空気」はまだ冷たいかもしれません。それは単なる「機能的な関係性」に過ぎないからです。そこに「信頼」の要素を加えることで、組織の空気は温かくなり、メンバー間のエンゲージメントが格段に高まります。
⑤メンバーの意見に耳を傾ける(傾聴)→どんな小さな声にも真剣に耳を傾け、「あなたを大切に思っている」というメッセージを伝える。
⑥困難な状況でもリーダーが率先して行動する(誠実さ)→ 困った時にこそ、リーダーが逃げず、率先して課題解決に取り組む姿勢を見せる。
⑦失敗を責めずに、学びの機会と捉える(包容力)→挑戦に伴う失敗を許容し、「次はどうするか」を共に考えることで、メンバーの挑戦意欲を高める。
⑧メンバーの成長を心から願う(相手への期待)→個々の能力や可能性を信じ、成長のための機会を提供し支援する。
「信用」で「この会社は大丈夫、この人は期待に応えてくれる」という安心感を与え、「信頼」で「この会社で働くのは楽しい」「この人たちと一緒ならもっと成長できる」というポジティブな感情と絆を育むんです。信用がなければ信頼は育たず、信頼がなければ組織の真の力は発揮されません。
- 「対話」が「信頼」と「信用」の架け橋
「信頼」と「信用」を同時に育む上で、最も強力なツールとなるのが「対話」です。単なる情報伝達ではない、質の高い対話が重要なんです。
①信用を築く対話→具体的な目標設定、進捗報告、役割の明確化など、事実に基づいた情報交換を通じて、お互いの「仕事ぶり」を理解し、期待に応える「信用」を積み重ねていきます。「〇〇をいつまでに、どういう形で仕上げる」という明確な約束を交わし、その達成度を確認していく。
②信頼を深める対話→仕事の進捗だけでなく、個人のキャリアプラン、価値観、悩み、目標などを共有する場を設けることで、相手の人間性への理解が深まります。
リーダーがメンバーの個人的な成長を支援する姿勢を見せたり、メンバーが互いの弱みをさらけ出せたりする「心理的安全性」の高い対話は、強固な「信頼」を育む上で不可欠です。
たとえば、困難に直面したメンバーが「正直、このままだと間に合わないかもしれません」と打ち明けた時、リーダーが「そうか、無理なら無理と言ってくれて構わない。どうすれば間に合うか、一緒に考えよう」と答えたらどうでしょうか?メンバーは「このリーダーは、たとえ困難な状況でも自分をサポートしてくれる」と感じ、リーダーへの「信頼」が深まるでしょう。
会社では、上司と部下の双方の信用と信頼のバランスが大切です。どちらか一方が求めすぎる、要求すぎる、関係では良好な信用関係も、信頼関係もうまれません。
この二つの対話がバランスよく行われることで、組織の「空気」は、単なる効率性を追求する場から、互いに支え合い、挑戦を奨励し、共に成長していく、ポジティブなエネルギーに満ちた場へと変容していくんです。これこそが、透明資産の「昇華」です。
―なぜ、日常の中に潜む「信頼」と「信用」のが大切なのか?
「信頼」と「信用」がなぜ組織にとってこれほどまでに大切なのか。それは、これらが具体的な成果に結びつくというエビデンスが豊富にあるからです。
- 心理的安全性の向上とイノベーション促進
ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・C・エドモンドソン教授は、チームの心理的安全性(Psychological Safety)が、学習とイノベーションに不可欠であることを明らかにしました。
心理的安全性とは、「対人関係におけるリスクを負っても大丈夫だと信じられる状態」のこと。つまり、「何か発言しても、失敗しても、バカにされたり罰せられたりしない」という「信頼」に基づいた空気のことです。
心理的安全性が高いチームでは、メンバーは躊躇なく質問し、新しいアイデアを提案し、失敗を正直に報告できます。これは、試行錯誤を通じてイノベーションを生み出す上で極めて重要です。
エビデンスとして、Googleが実施した「Project Aristotle」では、成功するチームの共通項として「心理的安全性」が最も重要な要素であると結論付けられました。これはまさに、「信頼」という透明資産が、組織の学習能力やイノベーションという別の透明資産へと昇華する好例と言えるでしょう。
- 従業員エンゲージメントと生産性の向上
社員が会社やリーダーを「信頼」している場合、彼らはより積極的に仕事に取り組み、組織への貢献意欲が高まります。これは従業員エンゲージメントの向上に直結します。ギャラップ社などの調査では、従業員エンゲージメントの高い企業は、低い企業に比べて、生産性が高く、顧客満足度が高く、離職率が低いという明確な相関関係が示されています。
また、「信用」という側面では、成果に対する公正な評価システムや、約束された報酬の確実な支払いが、社員のモチベーションを維持し、長期的なコミットメントを引き出す上で重要です。つまり、「信用」が基本的な土台となり、「信頼」が上乗せのモチベーションとコミットメントを生み出すというわけです。
- リスクマネジメントと危機対応能力の強化
組織内に「信頼」が確立されていると、危機に直面した際の対応力が格段に高まります。メンバーは問題を隠蔽せず、早期に共有するため、迅速な対応が可能になります。また、リーダーへの「信頼」があるため、困難な決断が求められる場面でも、メンバーはリーダーの判断を受け入れ、一丸となって危機を乗り越えようとします。
反対に、「信用」が失われると、組織内外での混乱を招きます。例えば、企業が不正行為を隠蔽したり、お客様への約束を破ったりすれば、一度失われた信用を取り戻すのは至難の業です。東日本大震災の際、ある企業は被災地への迅速な物資供給と社員の安全確保を優先し、それが「企業としての社会的信用」を高めました。そして、その過程で、社員間の「信頼」もさらに深まったと言われています。
- ブランド価値と採用競争力の向上
社内外から「信用」され「信頼」される企業は、ブランド価値が向上します。お客様は安心してサービスを利用し、パートナー企業は積極的に協業を求め、そして何よりも優秀な人材が集まってきます。社員が「この会社で働けて誇らしい」と感じる「信頼」は、強力な採用メッセージとなり、採用競争力を高める透明資産となります。これは、経済産業省が提唱する「健康経営」や「働き方改革」にも通じる考え方であり、企業が持続的に成長するための重要な基盤です。
―日常の「ちょっとしたこと」が「信頼」と「信用」を育む
「信頼」と「信用」を育むのは、特別なことばかりではありません。私たちの日々の「ちょっとした行動」の積み重ねの中にこそ、その鍵が隠されているんです。そして、その一つ一つの行動が、「信頼してほしい」という皆さんの欲求を満たす第一歩になるはずです。
- 挨拶と笑顔
「おはようございます」「ありがとうございます」といった基本的な挨拶を、相手の目を見て、笑顔で伝える。これだけで、相手に「この人は開かれているな」という印象を与え、小さな「信頼」の種を蒔きます。
- 約束を守る
たとえ「今日の午後、資料を送ります」といった小さな約束でも、必ず守る。もし守れない事情ができた場合は、早めに連絡し、その理由を伝える。これによって「この人は言ったことをちゃんとやる」という「信用」が積み上がります。小さな約束を積み重ねることで、大きな約束への「信用」が生まれるんです。
- 感謝を伝える
誰かに何かをしてもらったら、具体的な言葉で感謝を伝える。「ありがとう」だけでなく、「〇〇してくれて助かりました」と具体的に伝えることで、相手は「自分の行動が認められている」と感じ、ポジティブな関係性が育まれます。
- 相手の話を最後まで聞く(傾聴)
相手が話している途中で遮らず、最後まで耳を傾ける。相手の目を見て、うなずき、共感を示す。これによって、相手は「この人は自分の話を真剣に聞いてくれる」と感じ、「信頼」が深まります。
- 間違いを認める
自分が間違っていたら、素直にそれを認める。「ごめんなさい」「私の間違いでした」と言える人は、かえって「信用」されます。そして、その誠実な姿勢が「信頼」へと繋がります。「完璧な人」よりも「正直な人」にこそ、人は「信頼」を寄せますからね。
- 情報の透明性
可能な範囲で、なぜその決定がなされたのか、現状はどうなっているのか、という情報を共有する。特に困難な状況にある時ほど、隠さずに開示することで、組織内外からの「信用」を維持し、不必要な憶測を防ぎます。
これらは、決して難しいことではありません。しかし、これを継続的に実践することで、周囲の人々との間に「信頼」と「信用」という、かけがえのない透明資産が確実に育まれていきます。そして、皆さんが「信頼されたい」という欲求も、自然と満たされていくはずです。
―「信頼」と「信用」の昇華、そして透明資産経営の真髄
私たちは、経営において往々にして目に見える成果や数字ばかりを追い求めがちです。しかし、本当に持続可能で強い組織を作り上げるためには、目に見えない「空気」を大切にし、その「空気」を形成する「信頼」と「信用」という透明資産を意識的に育んでいかなければなりません。
「信用」は、約束されたパフォーマンスを確実に実行することで得られる、組織の安定と効率性を支える土台です。そして、その「信用」が積み重なった先に、「この人(この組織)なら、もし何があっても大丈夫」という「信頼」が生まれる。この「信頼」こそが、組織の活気、イノベーション、そして危機を乗り越えるレジリエンスを育む力となるのです。
この「信頼」と「信用」が、互いに影響し合い、らせん階段のように上昇していくことで、組織の「空気」はさらに洗練され、ポジティブなエネルギーに満ちたものへと昇華していきます。これが、私が考える透明資産経営の真髄です。
ぜひ今日から、皆さんの日常の中で、そして組織の中で、「信頼」と「信用」の違いを意識し、それぞれの側面から意図的に育む努力をしてみてください。その積み重ねが、きっと皆さんの組織を、そして皆さんの未来を、より豊かで確かなものへと導いてくれるはずです。
皆さんの「透明資産」を見つけ、育て、そして昇華させていくヒントになれば幸いです。
―勝田耕司
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