降り続く雨が、窓ガラスに不規則な模様を描いています。私は書斎の奥底から、いつの間にか埃を被っていた一冊の古い地図帳を引っ張り出しました。それは、私がまだ「経営」という巨大な海に漕ぎ出す前、ただがむしゃらに未来を夢見ていた頃に、ボロボロになるまで使い倒した地図でした。
ー無意識の深層に眠る「最初の航跡」
あなたは今、この文章を目で追いながら、ふと自分の「原点」に思いを馳せてはいませんか。私たちが日々、目先の数字や複雑な人間関係という荒波に揉まれるなかで、知らず知らずのうちに心の奥底へ沈めてしまった「あの頃の情熱」。それを今、この雨の匂いとともに、ゆっくりと引き揚げてみてください。
ページをめくると、そこには赤ペンで引かれた無数の線が残っていました。どこへ向かうべきか、何を実現すべきか、当時の私が必死に描き出した航跡です。その線の一本一本には、まだ何者でもなかった私が放っていた、純粋で、かつ鋭利な「空気感」が宿っていました。私たちは、成功を重ねる過程で、効率や合理性という便利な道具を手に入れる代わりに、あの頃持っていた「目に見えない熱量」をどこかに置き忘れてきてしまったのかもしれません。いま、あなたの内側で、かつての自分と現在の自分が静かに視線を交わし始めているのを、あなたは深い安らぎとともに感じているはずです。
ー「淀み」を洗い流す、内面という名の雨
組織を経営していると、どうしても「淀み」が生じます。それは、慣れや妥協、あるいは言葉にできない不信感が積み重なってできる、目に見えない膜のようなものです。社長がどんなに素晴らしい戦略を叫んでも、その膜が空気を遮断していれば、従業員には届きません。この古い地図に触れて私が感じたのは、自分自身の内側にある「淀み」を自覚することの痛み、そして、それを洗い流すことの大切さでした。
雨は、すべてを等しく濡らし、洗い流していきます。経営者の仕事とは、時にこうした「内面の雨」を受け入れ、自らの原点を問い直す孤独な時間を持つことです。社長が自らの「原体験」に立ち返り、そこにあるストーリーを再び経営に反映させ始めたとき、組織に流れる空気は劇的に透明度を増していきます 。なぜなら、そこには嘘偽りのない「個の物語」が宿り、それが磁石のように周囲の共感を引き寄せるからです 。あなたが今、感じているその小さな違和感は、実は「原点に戻れ」という無意識からの重要なサインに他なりません。
ー「Story」という名の最強の経営資産
地図の上に記された私の歩み。それは、単なる移動の記録ではなく、私がこの社会にどのような「心地よさ」を創り出したいと願ったのかという、透明資産の設計図そのものでした。社長のストーリーは、会社の空気の源泉であり、従業員やお客様と深い絆で結ばれるための唯一無二のメディアとなります 。どんなに優れた商品スペックも、時が経てば色褪せますが、社長の人生から紡ぎ出された「想い」は、色褪せるどころか、語り継がれるほどに深みを増していくのです 。
組織の空気を意図的にデザインするということは、この「社長のストーリー」を日常の些細な言動にまで浸透させる作業です 。朝礼での一言、トラブルへの向き合い方、そして誰にも見られていないときの振る舞い。それらすべてが、あなたの物語の一部として、組織の透明資産を形作っていきます 。従業員が「この社長の物語の続きを一緒に作りたい」と心から願ったとき、組織はもはや指示を待つ集団ではなく、自走するひとつの生命体へと進化を遂げるのです。
ー過去から未来へと繋がる「透明な架け橋」
地図を閉じ、私は窓の外を眺めました。雨は上がり、雲の切れ間から差し込んだ月光が、濡れた庭の木々を幻想的に照らし出しています。私が今日、古い地図から受け取ったのは、単なるノスタルジーではありません。それは、未来へ向けて再び力強く漕ぎ出すための、透明で揺るぎない「確信」でした。
あなたの会社の透明資産も、あなたの過去という土壌の中に深く根を張っています。そこから何を掘り起こし、どのような物語を紡いでいくのか。その決定権は、常にあなたにあります。目に見える変化を求める前に、まず自分の内側に眠る「源泉」に触れてみてください。そこから溢れ出す温かな気が、あなたの組織の空気を満たし、関わるすべての人々を幸せへと導く灯火となるのです。
新しい地図を描く必要はありません。いま、あなたの手の中にあるその「在り方」こそが、未来を切り拓く唯一の地図なのです。さあ、夜が明ければ、新しい航海が始まります。あなたの物語の続きを、世界が待っています。
ー勝田耕司













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