新型コロナウィルス禍は、日本でも終息したと言っていいでしょう。政府の専門家会議は「第9波が起こりつつある」と危機感を訴えていますが、もうポストコロナに向けた動きは止まることはないと思います。人々の意識も行動も、コロナを脱して次のステージに踏み出そうという方向に動いています。そこには、コロナ禍の“失われた3年間”を取り戻そうという勢いが強く感じられます。
その一方で、コロナ禍で失ってしまったものの大きさも痛感します。外食業界でとくに大きいのは、お酒を主力に扱う業態が受けた打撃でしょう。先頃、日本フードサービス協会が2021年の外食産業市場規模の推計データを公表しましたが、2020年に続いて「居酒屋・ビアホール等」部門の苦戦が際立っていました。2021年の同部門の売上高は4500億円弱。これはデータの集計がはじまった1975年とほぼ同じ、売上高がピークだった1992年の3分の1以下に過ぎません。居酒屋のマーケットはコロナ禍の3年の間に、50年近く前の規模にまで縮んでしまったことになります。その要因は言うまでもなく、大量の店が閉店・廃業に追い込まれたことです。
そうした店の中には、長い時間をかけてお客様との信頼関係を築いてきた店も多かったはずです。そういう人と人とのつながりが失われてしまったことこそ、外食業界にとって最大の損失でしょう。
このコラムで何度もお伝えしてきた通り、お客様からの信頼こそがブランドの源泉であり、最も大切な透明資産です。お店が長く続くことは、それだけ長期間にわたってお客様との信頼関係を築いてきた証に他なりません。それこそが、まさに老舗の価値なのです。
BS-TBSで放映されている人気のテレビ番組『町中華で飲ろうぜ!』には、創業から30年以上、中には半世紀を超えるような歴史を持つお店が数多く登場します。それらは、老舗という言葉からイメージされる格式や敷居の高さとは無縁ですが、長く日本の食文化を支えてきた貴重な存在であることは間違いありません。番組に登場する店主たちもまた、決して偉ぶったり自慢をすることのない、謙虚な人ばかりです。でも同時に、人々の日常生活に貢献してきたことへの誇り、自らの商売に対するプライドも強く感じます。
この番組が長く人気を得ているのは、登場するお店への関心だけでなく、そうしたお店のありかたに視聴者が魅力を感じるからではないでしょうか。町中華は、居酒屋と並んで日本独自の飲食店のスタイルですが、それぞれが独自の透明資産=お客様との強い絆を持っているという点で、世界に誇れる食文化と言えるでしょう。そして、その食文化の価値はコロナ禍を経てますます高まっています。
ー勝田耕司
この記事へのコメントはありません。