コロナウィルス禍でも比較的好調を維持した外食のジャンルに焼肉があります。
排煙設備があるため換気がよい、テーブルの中央にロースターがあるので“密”になりにくい、など感染拡大防止につながることが好調の要因という見方がありますが、一番大きいのは「業態の進化」でしょう。
この10年ほどを振り返ってみると、焼肉ほど業態や店のスタイルが多様化した外食のジャンルは他にありません。食べ放題の業態ひとつとっても、かつてないほどに品揃えが拡大しましたし、最大手の「焼肉きんぐ」のように行き届いたサービスで高い顧客満足を実現している事例もあります。
一方で、コロナ禍でもお客様を集められる数少ないジャンルであることに注目し、焼肉業界に参入する動きも見られます。
好例が、居酒屋の既存店を次々と焼肉店に転換しているワタミ㈱でしょう。もっとも、それがすべて成功しているわけではありません。都心部では夜の集客に苦戦し、「焼肉の和民」は食べ放題を廃止し通常の焼肉店スタイルに変えました。これに合わせて焼肉の単品価格を引き下げていますが、同業他店との差別化につながるかは不透明です。
客席にセルフサービスのサーバーを設置してレモンサワーを飲み放題で提供するホルモン焼き業態も、ここにきて参入が相次いでいます。「0秒レモンサワー 仙台ホルモン焼肉道場 ときわ亭」がその代表で、フランチャイズで急速に店数を拡大しました。居酒屋のトレンド商品であるレモンサワーと、コロナに強い商品である焼肉を組み合わせた、いわば“いいとこ取り”を狙った業態といえます。
焼肉業態の多様化は、それまでにない形で顧客満足を追求しようという動きであり、それ自体は意義のある取り組みであると思います。ただここで大切なのは、主力商品である肉について独自のこだわりを貫いているかどうかです。
それは何も、ブランド牛など高品質な食材を使うといったことに限りません。肉の下処理やカッティングの工夫、よりおいしく食べていただくための焼き方のサゼスチョンなど、こだわりを表現する方法はさまざまにあります。
それは店側の食材に対する想いを示すものであり、そうした想いの深さこそが透明資産、すなわちその店ならではの価値になるのです。
レモンサワー飲み放題を売りにする業態の多くは、主力商品のホルモン焼きについても基本的な考え方はセルフサービスであり、おいしく食べていただくための取り組みが十分とはいえません。
商売が永続するかどうかのポイントは「スタイル(売り方)」ではなく「マインド(想い)」にあります。外食がコロナ禍からの復活をめざすうえで、このことをしっかりと認識する必要があると思います。
ー勝田耕司
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