コロナウィルス禍を受けて外食業界ではさまざまな“新ビジネス”が登場しました。
店舗を持たずネットで注文を受け付け、配送は外部インフラを活用する宅配専門の「ゴーストレストラン」はその典型です。
他にも、テイクアウトや宅配に特化した業態、冷凍食品の自動販売機など、それまでになかったビジネスが生まれました。
それらは、外出自粛にともなう外食マーケットの縮小に対応すると同時に、コロナ禍が引き起こした生活様式の変化に合わせたものでもありました。
その点では、新しいビジネスの可能性を秘めていたはずです。しかし、“Withコロナ”の時代に入ろうとしている今、それらが今後急速に伸びていくとは思えない状況にあります。
コロナ禍で注目された外食の新業態のひとつに、㈱ダイニングイノベーションが開発したハンバーガーショップ「ブルースターバーガー」があります。
フードテックを活用することで、オーダーから受け取りまで“完全非接触”を実現したテイクアウト・宅配専門の業態として、1号店オープン当初はマスコミで盛んに取り上げられました。
一時はフランチャイズによる急速展開を表明していましたが、先ごろ全店を閉鎖し事業から撤退することを発表しています。
ブルースターバーガーの売りは、完全非接触であることに加えて、商品自体のお値打ち度の高さにありました。
冷凍ではなくチルドのビーフパティを使いながら、ハンバーガーの単品価格を170円からに設定できたのは、フードテックの活用によって人件費などのコストを抑えられるから。
しかし実際に店を利用してみると、そのクオリティが現場できちんと実現できているとはいえませんでした。
システム上どうしても商品のできあがりと受取りにタイムラグが出てしまうため、受け取った商品の温度が低いことがしばしばありました。食べてみて「つくりたてであれば、どんなにおいしいことか」と思ったものです。
ブルースターバーガーでは今年初めに東京・渋谷にイートインを充実させた(=当初のコンセプトからはかけ離れた)スタイルの店を出店しましたが、ここで食べたつくりたてのハンバーガーはきわめてクオリティの高いものでした。
この業態開発の意義を否定はしません。しかし、ブルースターバーガーは完全非接触のコンセプトにこだわるあまり、外食ならではの「おいしさ」が犠牲になってしまいました。
外食業界でフードテック活用の重要性が叫ばれていますが、それがおいしさに直結してこそ新しい価値が生まれます。その価値の蓄積が透明資産となり、店のブランド力をつくっていくのです。このことは、生活様式がどのように変わろうと不変の真理であると思います。
ー勝田耕司
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