感染者数が低下傾向にあるとはいえ、依然としてコロナウィルス禍は落ち着きを見せません。
いわゆる“ゼロゼロ融資”を受けて苦境をなんとか乗りきったものの、長引くコロナ禍で破綻に追い込まれる企業が出るなど、経営環境は好転しないままです。
外食マーケットも厳しい状況が続くなか、とくに苦しいのが居酒屋です。なかでも幅広い品揃えを持つ「総合メニュー型居酒屋」は、若者の酒離れもあって業績悪化に歯止めがかからない状況にあります。
繁華街に多かった空中階の店舗は、外出自粛やテレワークの浸透といった生活様式の変化に直撃されました。こうした店舗はコロナ禍が起こる前から過当競争による客数低下が目立っていましたが、コロナ禍による変化がその状況をさらに悪化させています。
これまで総合メニュー型居酒屋を主力に展開してきた企業は、食事主力の業態や専門店型の業態を開発するなど、こぞって“脱・居酒屋”に舵をきっています。
そうしたなかで注目したいのが、「旬鮮酒場 天狗」や「テング酒場」を展開するテンアライド㈱の動きです。最近開発した新業態「てんぐ大ホール」は、現在の業界トレンドとは逆に“総合型”の性格をより強めた業態。
既存業態の売れ筋メニューに加えて、炒飯やラーメンなどの食事メニュー、さらには定食なども揃えています。営業時間は11時30分~23時でクローズタイムなしと、いわゆる全時間帯稼働をめざした業態です。
実際に行ってみると、これはまさしくテンアライドならではの店だと強く感じました。「焼き餃子」や「サイコロステーキ」といった昔からの定番メニューは、さすがと思わせるクオリティの高さ。
焼き餃子は3個から注文でき、アジフライは1尾だけでなく半尾も選べるようにするなど、きわめて使い勝手のよい店になっています。
テンアライドは居酒屋業界で初めて株式上場を果たした先駆者ですが、業界でいち早く「業態発想」を取り入れた企業としても知られています。業態発想とは「どのように店を使ってもらうか」から店づくりを考えること。
創業者の故・飯田保氏はかつて外食専門誌のインタビューに答えて、「創業当時の客単価は800円。その金額でいかにお客様に満足していただくかを考えて、商品の品質やサービスを突き詰めていった」と語っていました。この明確な業態発想が、テンアライドが成長を遂げた最大の原動力だったのです。
てんぐ大ホールにも、そうした同社ならではの思想が感じられます。「顧客満足をどう高めるか」を起点にビジネスを考えるという企業マインドこそ、テンアライドの透明資産。それが、居酒屋市場に逆風が吹くなかにあっても独自の魅力を生み出しています。
ー勝田耕司
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