コロナウィルス禍でもっとも大きな影響を受けた業態といえば居酒屋です。緊急事態宣言の解除によってお客様は戻ってきていますが、第6波の到来も懸念されるなか、コロナ前の状況に戻ることは期待できません。だからこそ鳥貴族やワタミのように、居酒屋に頼った経営からの脱却を図る動きが続いているわけです。
そうした取り組みは外食大手だけでなく、中小の居酒屋企業にも広がってきています。首都圏で鮮魚居酒屋を中心に多くの繁盛店を生み出してきた㈱魚金もそのひとつ。同社の主力ブランドである「魚金」は、築地直送の鮮魚を破格値で提供し人気を集めてきましたが、コロナ禍で長く休業を余儀なくされていました。
そこで食事利用中心の業態として「トンカツ ツキウマ」を開発。今年に入って東京都内に2店を相次いでオープンしています。
とんかつという商材を選んだのは、ランチとディナーのどちらにも強く、テイクアウトにも向くのが理由とのことですが、そのメニューには魚金に通じる企業の“哲学”が貫かれています。
豚肉は千葉産のブランド豚「林SPFポーク」。SPF(Specific Pathogen Free)とは「無菌」のことで、衛生的な環境で育てられ肉の柔らかさと脂の旨みが特徴です。信頼できる生産者と取引するという魚金の経営方針に沿って食材を選んでいるわけです。
単によい食材を使うだけでなく、そのよさを引き出すための取り組みも徹底しています。豚肉は一頭買いで仕入れており、とんかつにはリブロース、肩ロース、上ロース、ヒレの4つの部位を使用。それぞれの部位に合わせた最適な肉のカットや揚げあがりを追求し、異なるおいしさを楽しめるようにしています。
肉の中心部がほんのりとピンクに仕上がった“レア”の状態で提供できるのはSPFポークならでは。すっきりとした肉の脂の味わいを邪魔しないよう、揚げ油にはクセのない白絞油を使い、さらに油の劣化を極限まで抑えられる画期的なフライヤーとして注目されてい「Dr.Fry」を導入するなど、細かな部分にも手抜きがありません。
魚金は東京・新橋の1店の居酒屋からスタートしましたが、そのヒットの理由はオーナー自ら築地で毎朝仕入れる鮮魚のクオリティの高さにありました。素材を見極める目利きの力、素材のよさを引き出す下処理と調理のノウハウが成長を支えてきたのです。それは同社にとって最大の「透明資産」といえます。
単に食事利用の業態を開発するだけでなく、自社の透明資産を生かし、その資産の価値をさらに高めるという考えを貫いていること。トンカツ ツキウマでもっとも注目すべきは、その点でしょう。
ー勝田耕司
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