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【透明資産を見つけよう】「頑固」と「信念」の集団が創り出す「空気感」の決定的な違い

「頑固」と「信念」の集団が創り出す「空気感」の決定的な違い

人はなぜ、自らの考えや行動様式を頑なに守ろうとするのでしょうか。そして、何がその固執を、より建設的な「信念」へと昇華させるのでしょうか。企業や組織、さらには国家といった集団を動かす「空気感」は、そこに属する個々人の心のあり方によって形作られます。とりわけ、その集団を構成する人々が「頑固」なのか、それとも「信念」を持っているのかによって、その集団が放つ空気感はまったく異なるものとなります。本稿では「頑固」の集団と「信念」の集団が創り出す空気感の本質的な違いについて考察します。

1 「頑固」という心のメカニズム

「頑固」とは、自身の考えややり方に固執し、外部からの意見や環境の変化を容易に受け入れない心理状態を指します。この行動は、単なる性格の問題ではなく、脳が自己を守るために発動する、極めて原始的なメカニズムに根差しています。

①不安と現状維持バイアス

人は「現状維持バイアス」と呼ばれる傾向を持っています。これは、変化に伴う不確実性やリスクを避けるために、たとえ現状に不満があったとしても、そのままの状態を維持しようとする心理的な力です。新しいことを学ぶことや、未知のやり方に挑戦することは、脳にとって大きなエネルギーを消費するプロセスであり、同時に失敗のリスクを伴います。

脳科学の観点から見ると、この変化への抵抗は、扁桃体(amygdala)という脳の部位が深く関わっています。扁桃体は、恐怖や不安といった感情を司る中枢であり、危機を察知すると「戦うか、逃げるか(fight-or-flight)」の反応を促します。新しい情報や異なる意見は、既存の認知フレームワークを揺るがす「脅威」として認識され、扁桃体が活性化します。その結果、脳は「変化は危険である」という信号を発し、外部の意見を拒絶することで、自身の安全な世界観を守ろうとします。これが、「頑固」な行動の根底にある不安の正体です。

②認知的不協和の解消

また、認知的不協和(cognitive dissonance)も、頑固さを生み出す重要な要因です。認知的不協和とは、人が同時に矛盾した二つの認知(考え、信念、態度など)を抱えることで生じる不快な心理的緊張を指します。たとえば、「自分のやり方は正しい」という考えと、「新しいやり方の方が効率が良いかもしれない」という情報がぶつかったとき、人はこの不快感を解消しようとします。最も手っ取り早い解消方法は、「新しいやり方は間違っている」と結論づけ、自分の既存の考えを正当化することです。

このプロセスは、自己のプライドを守ることとも密接に関連しています。過去の成功体験に依存する頑固な人は、その成功体験を築き上げてきた自身の判断や努力が「正しかった」と信じたいのです。新しい情報を受け入れることは、過去の自分のやり方が「間違っていた」と認めることになりかねず、自己のアイデンティティを脅かすように感じられます。

 

そのため、彼らの脳は、過去の成功体験を絶対的な真理として固定化し、そこから逸脱するあらゆる情報を「間違い」として排除しようとするのです。これは、脳が過去の経験を基に未来を予測し、安全を確保しようとする予測符号化(predictive coding)の働きとも関連しています。つまり、「俺の経験に間違いはない」という言葉は、無意識のうちに「過去の成功体験が、不確実な未来に対する唯一の拠り所である」という脳のメッセージを代弁しているのです。

2>「頑固」の集団が創り出す「停滞」の空気感

このような心理メカニズムを持つ人々が多数を占める集団は、どのような「空気感」を醸成するのでしょうか。

 

  • 「他者を拒む防御壁」としての組織文化

 

「頑固」な人々が集まる組織では、新しい意見や提案は「異物」として扱われがちです。新しいシステムや方針を導入しようとすると、「前のやり方の方が良かった」「自分のやり方がある」といった抵抗に直面します。これは、個々人の内的な「防御壁」が組織全体に広がり、「変化を拒む防御壁」として機能するためです。

この空気感は、「共有された認知」として組織内に定着していきます。メンバーは無意識のうちに「ここでは変化は歓迎されない」というルールを学び、新しいアイデアを口にすることをためらうようになります。心理学における「集団極性化(group polarization)」の研究が示唆するように、もともと頑固な傾向を持つ人々が集まると、その傾向はさらに強まり、集団としてのリスク回避志向が高まります。

その結果、組織は外部環境の変化に適応できなくなり、やがて「時代に取り残される」という事態に陥ります。この停滞した空気感は、創造性やイノベーションを阻害し、最終的には組織全体のパフォーマンスを低下させます。スタンフォード大学のキャロル・S・ドゥエック教授が提唱した「fixed mindset(硬直したマインドセット)」の概念は、この状態を的確に説明しています。

 

硬直したマインドセットを持つ人々は、「自分の能力は固定的で変わらない」と信じており、新しい挑戦や失敗を恐れます。頑固な集団は、まさにこの硬直したマインドセットが蔓延した状態であり、そこでは学びや成長の機会が失われていくのです。

3>「信念」という心のメカニズム

 

対照的に、「信念」とは、会社や組織の価値観や理念に基づき、判断や行動の確固たる軸を持つことを指します。「頑固」が過去に縛られるのに対し、「信念」は未来を志向します。

①価値観と自己超越

「信念」は、単なる個人的なこだわりではなく、より大きな目的や価値観に根差しています。脳科学の観点から見ると、これは「自己超越(self-transcendence)」と呼ばれる心理的なプロセスと関連しています。自己超越とは、自己の利害を超え、より大きなコミュニティや理念、あるいは宇宙全体と一体になろうとする精神的な傾向です。

スタンフォード大学のウィリアム・ダモン教授による「目的(purpose)」の研究は、この点を裏付けています。目的意識を持つ若者は、困難な状況に直面しても、それを乗り越えるためのモチベーションを高く維持することが示されています。これは、彼らが「何のために」行動するのかという「Why」が明確だからです。

信念を持つ人々は、組織の理念や顧客への貢献といった「Why」を内面化しています。彼らの行動は、脳の報酬系(ドーパミン系)と深く結びついており、単に個人的な成功ではなく、「信念に沿った行動」そのものが大きな喜びや達成感をもたらします。これにより、彼らは自己の利益を超えた、より高いレベルでモチベーションを維持することができるのです。

②柔軟性と実行機能

「信念」を持つ人々は、目的のためであれば手段は柔軟に変えられるという特性を持っています。この柔軟性は、脳の前頭前野(prefrontal cortex)、特に実行機能(executive function)と密接に関連しています。実行機能は、計画を立て、思考を柔軟に切り替え、衝動を抑制するなどの高次な認知機能を司ります。

信念を持つ人々は、新しい情報や異なる意見を目的を達成するためのヒントとして捉えることができます。彼らの脳は、新しい情報を脅威として排除するのではなく、どのようにすれば目的をより良く達成できるかという課題解決の素材として活用します。これは、成長マインドセット(growth mindset)の典型的な特徴であり、自分の能力は努力次第で伸ばせると信じているため、新しい学びを積極的に取り入れます。

お客様第一という軸は揺らがないが手段は時代に合わせて変えるという言葉は、この心理状態を端的に示しています。彼らは、顧客を第一に考えるという目的に絶対的な価値を置く一方で、その目的を達成するための方法は常に最適化できると信じています。この目的への固執と手段への柔軟性のバランスこそが、信念の本質をなしているのです。

4>信念の集団が創り出す「推進力」の空気感

 

このような心理メカニズムを持つ人々が多数を占める集団は、組織にどのような「空気感」をもたらすのでしょうか。

①「未来を創る推進力」としての組織文化

「信念」を持つ人々が集まる組織では、「目的」を共有する共同体が形成されます。共通の「Why」があるため、個々人の行動はバラバラにならず、一貫した方向性を持つことができます。これは、組織の心理的安全性(psychological safety)を高めることにも寄与します。

心理的安全性とは、チームメンバーが対人関係のリスクを恐れることなく、自由に意見を述べたり、質問したり、あるいは間違いを認めたりできる状態を指します。信念を共有する組織では、私たちは皆、同じ目的のために行動しているという共通認識があるため、新しいアイデアを提案することや、失敗を素直に認めることに対する抵抗感が少なくなります。

ハーバード大学のエドガー・シャイン教授が提唱した「文化の三層モデル」においても、組織の基本的前提(basic assumptions)、すなわち無意識のうちに共有されている信念や価値観が、組織全体の行動や空気感を決定するとされています。信念の集団では、「変化は成長の機会である」「失敗は学びである」といったポジティブな前提が浸透しており、それが未来を創る推進力となります。

  • 個人の自律性とチームワークの相乗効果

 

信念を持つ従業員は、上司の細かな指示を待つ必要がありません。組織の理念や目的に基づいて自ら判断し、行動できる自律性が高いためです。心理学における自己決定理論(self-determination theory)によれば、人は自律性、有能性、関係性の3つの基本的な欲求が満たされると、内発的なモチベーションが高まります。信念の集団では、従業員は自律的に動けることで内発的モチベーションが向上し、それが個人のパフォーマンスだけでなく、チーム全体の活気にもつながります。

さらに、信念の集団では集団的知性(collective intelligence)が最大限に発揮されます。集団的知性とは、チームや集団が個々人の能力の合計を上回るパフォーマンスを発揮する能力です。信念という共通の軸があることで、個々人が持つ多様な知識やスキルが有機的に結びつき、より複雑で創造的な問題解決が可能になります。
この空気感の中で、従業員は「なぜこの仕事をするのか」という意味を共有し、困難な課題にも前向きに挑むことができます。彼らの行動は、周囲の人々を巻き込み、組織全体にポジティブなエネルギーの循環を生み出します。

5>経営における「頑固」と「信念」の決定的分岐点

 

経営者が「頑固」であるか「信念」を持っているかによって、組織の未来は決定的に分かれます。

 

  • 頑固な経営者がもたらす停滞

「頑固」な経営者は、自らの成功体験に固執し、変化を恐れます。彼らは過去の成功方程式を組織全体に強制し、新しいアイデアや異なる意見を排除します。この態度は、組織の硬直化を招き、イノベーションの芽を摘み取ります。従業員は、新しいことを提案しても受け入れられないという経験から、次第に挑戦意欲を失い、指示待ちの姿勢に陥ります。結果として、組織は時代の変化に取り残され、衰退の道を辿ることになります。

②念ある経営者がもたらす推進力

一方、「信念」を持つ経営者は、組織の理念やビジョンという揺るぎない軸を確立し、それを従業員と共有します。彼らは、変化を恐れず、むしろそれを成長の機会と捉えます。この「信念」は、従業員一人ひとりの行動の羅針盤となり、彼らが自律的に、かつ一貫した方向に向かって動くことを可能にします。

信念ある経営者は、なぜ私たちはこの仕事をするのか?という問いを常に発し、組織の目的を再確認させます。このコミュニケーションは、従業員の心に火を灯し、内発的なモチベーションを最大限に引き出します。ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・C・エドモンドソン教授は、「リーダーシップの核心は、チームの心理的安全性を築くことにある」と述べています。信念を持つ経営者は、この心理的安全性を育むことで、従業員が能力を最大限に発揮できる土壌を創り出すのです。

最後に、、、

「頑固」と「信念」は、一見似ているようで、その本質は全く異なります。前者は不安や防御に根差した自分軸の生き方であり、他者を拒む防御壁を築き、組織を停滞させます。後者は目的や価値観に根差した未来を創る推進力であり、他者を巻き込み、組織を成長へと導きます。

 

個々人が「頑固」な心理から脱し、より大きな「信念」へと心を向けること。そして、経営者が「信念」を組織全体に浸透させること。この変革こそが、不確実性の時代において、持続的な成長を遂げる組織を創り出すための鍵となるのです。

 

―勝田耕司

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