皆さん、こんにちは。
透明資産経営コンサルタントの勝田耕司です。
今日は、私たちの身の回りにある「空気」の話、特に組織の「空気」について深掘りしていきたいと思います。
皆さんの会社やチームの空気、良いですか?悪いですか?そして、その空気はどのようにして生まれているのでしょうか。
実は、この「空気」、とくに「感じいい空気」こそが、私が提唱する「透明資産」の核であり、組織の業績を左右する重要な要素なんです。
偶発的に生まれる「空気」の正体
私たちの日常は、人間関係の連続ですよね。家庭、友人、そして職場。これらの関係性の中で、私たちは常に「空気」を感じ取っています。
ある場所に行くと心が和み、また別の場所ではなんとなく重苦しい気持ちになる。これは、その場に流れる「空気」を感じ取っているからに他なりません。
組織においても、この「空気」は非常に重要です。朝礼の雰囲気、会議中の発言のしやすさ、休憩時間の会話。これら全てが、組織の「空気」を形作っています。そして多くの場合、この「空気」は偶発的に生まれています。
誰かが不機嫌な顔をしているだけで、会議室の空気がピリつく。ちょっとした成功で、チーム全体が活気づく。意図せずして「良い空気」が生まれることもあれば、あっという間に「悪い空気」が蔓延してしまうこともあります。
しかし、私が皆さんにお伝えしたいのは、この「空気」を偶発的なものとして放置するのではなく、意図的に、戦略的に「感じいい空気」を創り出すことこそが、組織の真の力、すなわち「透明資産」となるということです。
なぜ人は人で悩み苦しみ、空気が悪くなるのか?
では、なぜ組織の「空気」は悪くなってしまうのでしょうか。そして、なぜ私たちは人間関係で悩み、苦しむことが多いのでしょうか。その根源には、いくつかの要因があります。
まず、「評価と承認の欠如」です。人間は、認められたい生き物です。自分の貢献が正当に評価されない、努力が報われないと感じると、モチベーションは低下し、不満が蓄積します。これがやがて、組織全体の活気を奪う冷たい空気へと変わっていくのです。
心理学者のアブラハム・マズローが提唱した欲求段階説でも、承認欲求は基本的な欲求の一つとされています。この欲求が満たされないと、人は不安や不満を感じやすくなるのです。
次に、「コミュニケーション不足」です。情報が共有されない、意見が言い合えない環境では、不信感が募りやすくなります。誤解が生じ、疑心暗鬼になり、やがては人間関係に亀裂が入ります。
リモートワークが進む現代では、意図的なコミュニケーションの設計なしには、この問題はさらに深刻化しやすい傾向にあります。MITの組織学習センターの研究でも、効果的なコミュニケーションが組織のパフォーマンス向上に不可欠であることが示されています。
さらに、「感情の伝染」も大きな要因です。人間の感情は、まるでウィルスのように周囲に伝染します。怒りや不満はあっという間に広がり、チーム全体の士気を低下させます。逆に、ポジティブな感情も伝染しますが、ネガティブな感情の方が伝染力が強いという研究結果もあります。
例えば、イェール大学のニコラス・クリスタキス教授とハーバード大学のジェームズ・ファウラー教授の研究では、感情のネットワーク効果が実証されています。一人のネガティブな感情が、数珠つなぎに広がり、組織全体を覆ってしまうことがあるのです。
そして、最も根深い問題の一つが、「自己防衛本能」です。人は誰しも、自分を守りたいという欲求を持っています。新しいことへの挑戦をためらったり、自分の非を認めなかったりするのは、失敗や批判から自分を守ろうとする無意識の行動です。
これが過度になると、他者への非難や責任転嫁に繋がり、協力的な関係を阻害し、閉鎖的な空気を作り出してしまいます。
これらの要因が複雑に絡み合い、一度悪くなった空気はまるで沼のように組織を蝕み、負の連鎖を生み出してしまうのです。
悪い空気を断ち切り、心地よい空気を流し込む方法
では、この負の連鎖を断ち切り、意図的に「感じいい空気」を流し込み、「透明資産」として育てるにはどうすればいいのでしょうか。
- ポジティブな感情の意図的な伝染を促す
まず、ネガティブな感情の伝染を断ち切るために、意図的にポジティブな感情を「注入」し、伝染させることです。
アメリカの心理学者、バーバラ・フレドリクソンは、「ポジティブ感情の拡張・形成理論(Broaden-and-Build Theory of Positive Emotions)」を提唱しています。ポジティブな感情は、思考の幅を広げ、行動のレパートリーを増やし、新たな資源を構築する力があるというものです。
具体的には、
- 感謝の表明
日常的に「ありがとう」を伝え合う文化を醸成する。小さなことでも感謝を言葉にする習慣は、お互いの存在価値を認め合う基盤となります。
②成功体験の共有
小さな成功でも積極的に共有し、称賛し合う場を設ける。成功体験は自信に繋がり、次への意欲を生み出します。
- ユーモアの活用
適度なユーモアは、緊張を和らげ、リラックスした雰囲気を作り出します。笑顔の多い職場は、それだけでポジティブな空気を生み出します。
- 安心して個人の能力が発揮できる環境づくり
「感じいい空気」の最も重要な要素の一つが心理的安全性です。これは、組織行動学者のエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念で、「チームの誰もが、気兼ねなく意見を述べたり、質問したり、懸念や間違いを指摘したりできる状態」を指します。
Googleが行った「Project Aristotle」という研究では、成功するチームの最も重要な要因として「心理的安全性」が挙げられました。
心理的安全性を高めるには、以下の実践が有効です。
- リーダーからの率先した行動
リーダーがまず弱みをさらけ出したり、間違いを認めたりすることで、メンバーは安心して自分の意見を言えるようになります。
- 失敗を学びの機会と捉える文化
失敗を責めるのではなく、「何から学べるか」という視点で議論する。
- 傾聴と尊重
メンバーの意見を最後まで聞き、どのような意見であっても尊重する姿勢を示す。
- フィードバックの質を高める
批判ではなく、成長を促す建設的なフィードバックを心がける。
- コミュニケーションの「量」と「質」の向上
空気の悪化は、多くの場合、コミュニケーション不足から生じます。
- 意図的な対話の機会創出
ランチ会、定期的な1on1ミーティング、部門横断の交流会など、形式ばらない対話の場を設ける。
- 情報の透明化
可能な限り情報をオープンにし、社員が「知らされていない」と感じる状況を減らす。
- 傾聴スキルの向上
相手の話をただ聞くだけでなく、共感し、理解しようと努める傾聴のスキルを磨く。これは、ハーバード・ビジネス・レビューの記事でも、リーダーにとって不可欠なスキルとされています。
- 貢献と成長を可視化する仕組み
人は自分の貢献が認められたり、成長を実感できると喜びを感じます。
- 成果の共有と称賛
個人の成果だけでなく、チーム全体の成功も定期的に共有し、称賛する機会を作る。
- 学びの機会の提供
スキルアップ研修や新しい知識の習得を支援し、個人の成長を後押しする。
- キャリアパスの明確化
メンバーが将来のビジョンを描けるよう、キャリアパスを明確にする。
- 健全な対立を受け入れる文化
「感じいい空気」とは、常に和気あいあいとした状態を指すのではありません。健全な意見の相違もあり、それに対して議論ができる空気も重要です。
- コンフリクト解決スキルの向上
建設的な議論ができるよう、ファシリテーションスキルやコンフリクト解決のスキルを学ぶ機会を提供する。
- 多角的な視点の奨励
異なる意見を持つことを奨励し、それがイノベーションに繋がるという認識を共有する。
事例に学ぶ「透明資産」経営
実際に「透明資産」を育むことで、目覚ましい業績を上げている企業は数多く存在します。
<ザッポス>
お客様満足度を最優先する企業文化で知られています。彼らは従業員の幸福度とエンゲージメントを重視し、自由な企業文化と徹底した顧客サービスを通じて、競合との差別化を図りました。
社員が楽しんで働ける「感じいい空気」が、結果的にお客様への最高のサービス提供に繋がり、強力なブランド力を築き上げました。社員の個性を受け入れ、心理的安全性の高い環境を意図的に作り上げた典型例です。
<星野リゾート>
スタッフ一人ひとりが自律的に考え、行動できる文化を醸成しています。お客様と密接に関わる現場のスタッフが、自らサービスを改善していく仕組みがあり、これが「感じいい空気」を生み出し、高いお客様満足度とリピート率に繋がっています。
これは、社員の主体性と貢献意欲を最大限に引き出すことで、組織全体の「透明資産」を高めている事例と言えるでしょう。
あなたの組織に「透明資産」を
人間関係は、組織の「空気」を創り出す両刃の剣です。偶発的に生まれる良い空気もあれば、悪意なく生まれる悪い空気もあります。しかし、私たちはこの「空気」を単なる偶然に任せるのではなく、意図的に「感じいい空気」を創り出すことで、それを強力な「透明資産」へと昇華させることができます。
なぜ人は人で悩み、苦しみ、空気が悪くなるのか。それは、承認の欠如、コミュニケーション不足、感情の伝染、そして自己防衛本能といった根深い要因が絡み合っているからです。
しかし、これらの要因を理解し、ポジティブな感情の伝染、心理的安全性の構築、コミュニケーションの質向上、貢献と成長の可視化、そして健全な対立の受容といった具体的な方法を実践することで、必ずや心地よい空気を組織に流し込むことができるのです。
「透明資産」は、会計帳簿には載らない、しかし間違いなく企業の競争力と持続的成長の源泉となるものです。皆さんの組織に、この「感じいい空気」を意図的につくり出す仕組みとして「透明資産」を設計・運用することが大切なのです。
さあ、今日からあなたの組織の「空気」に意識を向け、より良い未来を創る一歩を踏み出してみませんか?
―勝田耕司
この記事へのコメントはありません。