東京・新宿にこの春開業した「東急歌舞伎町タワー」が大盛況です。マスコミでも盛んに取り上げられましたが、10の屋台を集結させた「新宿カブキhall~歌舞伎町横丁」が飲食施設の目玉。
全国のご当地グルメを1ヵ所で楽しめるのが売りで、本格的に回復してきたインバウンド客が押し寄せ大変な盛り上がりを見せています。
ただ、そのコンセプトも、そこで盛り上がる訪日外国人の姿にも「以前にも見たなあ」という強い既視感を覚えてしまいます。既視感があるのはコロナ前に戻ったということですから、それは歓迎すべきことなのかもしれませんが、そこに「新しい観光ビジネスを創出しよう」という考え方を感じられないのが気がかりです。
日本最大の歓楽街で、全国各地のご当地グルメが食べられる。それは日本の食の多様性を手っ取り早く知るには便利であっても、日本の食が持つ本当の豊かさを知ることにはつながらないと思います。
コロナ禍では、観光地に人が集中して地元民の生活環境が悪化する「オーバーツーリズムの弊害」が叫ばれました。そうした反省に立てば、東京のしかも中心部に“集める”のではなく、全国に“散ってもらう”べきでしょう。
ご当地グルメも、新宿ではなく全国各地で味わってもらったほうが間違いなくおいしいし、それでこそ観光ならではの「リアル」という価値が生まれるのだと思います。
そして、アフターコロナの時代に強く求められるのが、このリアルの価値でしょう。その筆頭に位置しているのが外食です。今後さらに増えるであろうインバウンド客には、ぜひとも日本の食の豊かさをリアルで感じてほしいと思います。
それはミシュランガイドに掲載されるような名声店や、名物店に行くことだけではありません。全国各地に普通に存在している店にも、独自の価値があります。
日本には全国各地に「ご当地外食チェーン」が存在します。エリア限定で店を増やし、地域住民に親しまれている外食チェーンのこと。ほとんどが日常的な食べものを主力にしていますが、そこには地域性が強く反映され、長い歴史が育んだ高い商品力も備わっています。
大分の焼きそばチェーン「想夫恋」や山口のうどんチェーン「どんどん」など。焼きそば用の麺をスパゲティ風に仕立てたオリジナル商品「イタリアン」を地元に定着させた新潟の「みかづき」のように、独特な食文化をつくってきたご当地チェーンもあります。
ご当地外食チェーンはどこも、長く地元民の食生活に貢献してきた歴史を持っています。その歴史と社会貢献度こそ、貴重な透明資産です。インバウンド客にはぜひとも、こうしたチェーンが日本の食の価値を高めていることを知ってもらいたいと思います。
ー勝田耕司
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