ー 需要の蒸発に苦しむ観光業界。
ホテルや旅館などの宿泊業以上に厳しい状況に置かれているのが、人の移動に直接かかわるビジネスです。JRをはじめとする鉄道会社や航空会社は前例のない業績悪化に陥っています。旅行代理店なども同様で、最大手のJTBも今冬のボーナス不支給を早々に決めました。
大手企業ですらそうした状況ですから、中小・零細企業の厳しさは言うまでもありません。少し前までインバウンド需要に沸いていた観光関連業種のひとつであるバス会社はとくに深刻で、経営破綻に追い込まれるところが次々と出ました。なんとか持ちこたえている会社でも、まったく先の見えない状況が続いていることには変わりありません。
しかし、だからこそ生き残りのためにさまざまなアイデアを出し、新しいプラン提案につなげようという動きが見られます。そして、その原動力となっているのが「透明資産」の活用です。
愛知県名古屋市に本社がある名阪近鉄旅行では、親会社の名阪近鉄バスと組んで「バス車庫巡り」のツアーを企画しています。名古屋市と岐阜県大垣市にある計3ヵ所の車庫を日帰りで巡るというもの。
バス旅行の中止で稼働できないバスが車庫に集まっており、その中には座席が総革張りの超高級バスや、インバウンド客向けの特別仕様のバスがあります。そうした普段目にすることがない車両を、バス好きの人々に見て楽しんでいただこうという趣向です。
他にも、教習用のバスに乗ったり、運転席に座ってドアの開閉作業をしたり、バスに乗車したまま洗車機に入って車内から洗車の様子を見たりといった、普段はできない体験がふんだんに用意されています。運賃表示器などの備品類のオークション販売もあり、バス好きにはこたえられないツアーとして評判を呼んでいます。
名阪近鉄旅行ではコロナウィルスの影響により、7月のバス運行台数が前年の1割にまで落ち込んでしまいました。車庫に多くのバスが並んだままの状態が続きましたが、それを見た添乗員が・・・
「これだけのバスが一堂に会する機会はなかなかない。それを見てもらえば、バス好きのお客さまが喜ぶのではないか」
と考えたのが、この企画のきっかけだったそうです。
バスは移動のための交通手段ですが、それ自体が愛好家には魅力的なコンテンツです。多くのバスを持つというバス会社にとって当り前なことも、お客さまから見ると魅力であり、それこそが透明資産。
少し視点を変えれば、普通に存在しているものが宝の山になることを教えてくれる、ユニークな取り組みといえるでしょう。
ー勝田耕司
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