ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、その理由はどうあれ力による現状変更であり、決して許されることではありません。戦争によって人々は平和な日常を突然奪われ、否応なしに対立の渦に巻き込まれてしまいます。
本来、人はお互いを尊重し合い、助け合うべきものであるのに、それと正反対の考えや行動を余儀なくされてしまう。これが戦争のもっとも残酷なところといえるでしょう。
お互いが他者に関心を持ち、寄り添いながら力を合わせて共通の目的を達成する。以前に私がこのコラムで触れた、企業や店など組織のあるべき形ですが、これは同時に人間本来の生き方でもあります。その対象は、共に働く人だけではありません。外食ビジネスの生命線である「食材」もまた、寄り添うべき大切なものです。
食材生産の現場を見ると、その食材に寄り添い、愛情を注ぎ続けることが、よい食材を生み出すために不可欠であることがわかります。その代表例が肉であり、優れた食肉生産者は牛や豚を単なる商品とは見ていません。
文字通り「育てる」対象であり、その環境づくりに力を尽くしています。そこには限りない愛情を感じます。
宮崎県三股町にある「中村畜産」は、上質な黒毛和牛「中村牛」を生産していることで知られます。中村牛が育つのは霧島連山の麓で、一年中花と緑に恵まれた自然豊かな場所。
こうした牛にとってストレスのない環境を用意することに加えて、中村畜産では飼育する牛にとことん寄り添い、その力を存分に引き出しています。
中村牛は、いわゆる「経産牛」。
何度も出産を経験した雌牛を、徹底した管理のもとで再肥育しているのです。与える飼料の配合や肥育環境に気を配り、上質な赤身の旨みが際立つ牛へと育てあげています。
それらの雌牛はこれまで、優れた黒毛和牛を数多く世に送り出してきたわけですが、そこでお役御免にするのではなく、再肥育することで新しい活躍の場を与える。これもまた、食材に深い愛情を注いでいるからこその取り組みであるといえるでしょう。
SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)の12番目に「つくる責任、つかう責任」があります。これは持続可能な生産消費形態を確保すること。
具体的には、少ない資源でより多くの、かつ良質なものが得られる生産や消費を実現することを指します。中村畜産の取り組みは、まさにこの目標に合致するものといえます。
外食ビジネスが食材を扱う上で大切なことは、単にムダをなくすのではなく、食材の持つ力を生かしきるという姿勢です。それは、人類が古来より抱いてきた自然に対する「畏敬の念」を取り戻すことに他ならないのです。
ー勝田耕司
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