前回、ロイヤルホールディングス㈱がコロナウィルス禍で力を入れてきた冷凍食品の販売事業「ロイヤルデリ」を取り上げましたが、同じ冷凍食品を扱いながら「こうも違うのか」と驚かされるのが㈱サイゼリヤの取り組みです。
同社のファミリーレストラン「サイゼリヤ」もコロナ禍で既存店売上げの前年割れが続いていますが、そうした状況を受けて力を入れているのが新しい小型店舗モデルの開発です。
ポイントはイートイン売上げに頼らない収益構造をつくることで、そこで柱となっているのが冷凍食品の販売なのです。
2021年4月に小型モデル1号店を東京・板橋の地下鉄駅前に出店しましたが、店舗規模が通常店の半分ほどである一方、壁一面が埋まるほどの大型冷凍ショーケースを設けています。
ショーケース上には「業務用冷凍食品販売中」と大書したパネルを掲げて、サイゼリヤの売れ筋メニューである「辛味チキン」や「ミラノ風ドリア」などの冷凍食品を販売。
ロイヤルデリが百貨店内で展開している期間限定店舗「ポップアップストア」の洗練された陳列方法と比べると、まったく飾り気というものがない売り方です。
10月に東京・練馬に出店した小型モデル2号店にも同様のショーケースがありますが、この店は飲食店としては最悪といえる立地です。まさに陸の孤島のような場所で、大手コンビニエンスストアが撤退後の物件を活用しています。
店舗面積54坪に対して客席数は50席と客席フロアはスカスカである一方、入口近くに設置した大型冷凍ショーケースは圧倒的な存在感。「イートインが売れなくてもいい」と宣言しているような店づくりに驚かされます。
この小型モデル店は、新しい収益構造をめざした取り組みであるとともに、サイゼリヤが掲げてきた経営理念を表現したものでもあります。
その経営理念とは「日常の暮らしに貢献する」ということです。
サイゼリヤが提供しているのはイタリア料理ですが、それは毎日でも食べられるヘルシーな料理だから。独自の仕入れルートを開発して素材から差別化するとともに、頻度高く利用できるよう低価格に徹する。
経営理念を実現するための取り組みを続けた結果、国内の店数が1000店を超える規模へと成長したのです。
小型モデル店は、冷凍食品の販売という新しい売り方を通じて日常生活に貢献しようとしています。
実際にこれらの店を見てみると、明らかに地元住民と思われる人々が多く、冷凍食品も順調に売れています。
まさしく「家の近くにあって便利」という利用動機を吸収しているのです。
一貫した経営理念こそサイゼリヤの透明資産であり、小型モデル店もその透明資産が生んだ大きな成果なのです。
ー勝田耕司
この記事へのコメントはありません。