SDGsの視点から見た、肉という食材の大切さについてお話ししています。前回のコラムで触れたように、単に商品をつくるための「材料」として扱うのではなく、その食材のよさを引き出し育てていく姿勢こそ、肉を扱ううえで不可欠になると思います。
そのことは、食文化という観点からもはっきりしています。世界にはさまざまな食文化があり、それぞれが独自の発展を遂げていますが、その中でも“豊かさ”という点で群を抜いているのが肉食の文化です。
豊かさとは、贅沢であるとか美食を追求しているという意味ではありません。その持ち味を引き出すために人知を結集し、さまざまな創意工夫がなされている食材の代表が肉なのです。
たとえば、肉の熟成。欧米では、牛などの畜肉にせよジビエ(野獣肉)にせよ、その肉に合った熟成の技術が古くから確立されてきました。シャルキュトリー(肉加工品)の技術についても同様です。
肉を使った料理については、まさに百花繚乱というべき広がりを見せています。牛肉や豚肉を豆と一緒に煮込んだ「フェジョアーダ」は、もともとはポルトガルなど欧州で食べられていたものですが、南米諸国において独自の発展を遂げ、ブラジルではいまや国民食になっています。
地域ごとの気候風土や食文化を背景に料理が進化・多様化してきたわけですが、いずれも食材のよさをとことん引き出すという姿勢こそが、その発展の原動力になっています。
同様のことは、日本の肉食文化についても言えます。典型的な例が焼肉でしょう。焼肉はいうまでもなく韓国が発祥の食文化ですが、日本の焼肉はいまやそのご本家を凌駕するほどの豊かさを誇っています。
コロナウィルス禍が起こる前、インバウンドに沸いていた頃は、外国人が日本で最も満足した食事として挙げていたのが焼肉でした。日本に来て初めて焼肉という食文化に触れ、そのおいしさに目覚めたという外国人の声も多く聞かれたものです。
そうした日本の豊かな焼肉文化を支えているのが、肉に対する深い愛情です。それは食材生産の段階にとどまりません。流通、さらには外食の現場における取り組みでも共通しています。
たとえば肉のカッティング。切り方ひとつで肉のおいしさは大きく変わりますが、このカッティングの技術を磨くことで、焼肉の新たなおいしさを追求しようという店が増えてきました。
その探求心は、食材に対する愛情があるからこそ生まれてくるものです。おいしいものをつくって多くの人々を喜ばせたいという想いこそ、食文化発展の原動力であり、最大の透明資産。食の原点を見つめなおすことも、肉という食材を扱う意義といえるでしょう。
ー勝田耕司
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