病院経営で抑えるべき透明資産経営の5つのポイント
こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。
透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた経営で、お客様との絆が深まり、従業同士の信頼関係が築きあげられ、商品・サービスの独自性が強化されます。そして、持続的成長につながる経営の仕組です。
さて、病院経営と聞くと、最新の医療機器、優秀な医師、効率的なオペレーションといった、目に見える有形資産や技術力が成功の鍵だと考えがちです。しかし、患者さんが「この病院を選びたい」「この病院の先生なら安心できる」と感じる理由は、それだけではありません。そこに横たわるのは、受付のスタッフの対応、看護師の言葉遣い、病院全体の清潔感、そして何よりも、医療チーム全体に満ちる、言葉にはできない「空気感」という名の無形資産です。この「空気感」こそが、病院経営における揺るぎない競争優位性、すなわち透明資産なのです。
私が提唱する透明資産経営は、この「空気感」を意図的に設計し、戦略的に運用することで、病院のブランド価値を高め、患者さんからの信頼を深め、最終的には安定した経営へと導く仕組みです。このコラムでは、病院経営で特に重要となる透明資産経営の5つのポイントを解説していきましょう。それは、病院を単なる病を治す場所から、人々の心と体を癒す「安心の場」へと進化させるための羅針盤となるでしょう。
<1>病院経営における「空気感」の重要性
現代の病院経営は、かつてないほど複雑かつ競争が激化しています。少子高齢化、医療技術の進歩、そして患者さんの価値観の多様化が進む中で、地域に根差した中小規模の病院は、大手病院や専門クリニックとの差別化をどのように図るかが大きな課題となっています。こうした状況で、病院が真に選ばれ続ける存在となるためには、他院が簡単に模倣できない独自の強み、すなわち「空気感」を磨き上げることが不可欠です。
心理学では、人間が意思決定をする際、論理的な情報だけでなく、感情的な要素が大きく影響することが明らかになっています。患者さんは、医師の診断や治療方針といった専門的な情報だけでなく、病院のスタッフから受けた対応、病院の雰囲気、そして「なんとなく安心できる」という感覚的な部分を総合して、その病院への信頼度を判断します。この「なんとなく」の正体こそが、病院全体が醸し出す「空気感」なのです。
この「空気感」は、病院の収益にも直結します。患者さんが安心感を抱けば、継続的な受診や口コミでの紹介に繋がり、結果として安定した患者基盤を築くことができます。逆に、受付の冷たい対応や、医療チーム内のギスギスした「空気感」は、患者さんの不信感を煽り、二度と来院しないという選択に繋がりかねません。これは、ランチェスター戦略における「弱者の戦略」にも通じます。大手病院が持つ豊富なリソースやブランド力に対抗するためには、中小規模の病院は、特定の領域で徹底的に優位性を築く必要があります。その特定の領域こそが、患者さんの心に深く響く「空気感」の創出なのです。
<2>病院経営で抑えるべき透明資産経営の5つのポイント
ここからは、病院経営で特に重要となる、透明資産経営の5つのポイントを、具体的な実践方法と理論的背景を交えながら解説していきます。
①院長・理事長の「在り方」が創り出す「安心」の空気感
病院の「空気感」は、誰よりも院長・理事長の「在り方」を色濃く反映します。院長・理事長が患者さんの命を最優先するという強い使命感を持ち、それを日々の行動で体現することで、組織全体に揺るぎない「安心」の空気感が生まれます。これは、病院を単なる治療の場ではなく、患者さんが心から信頼できる「安心の居場所」へと変えるための最も重要な土台です。
この「安心の空気感」を醸成するためには、院長・理事長が自らの哲学を、スタッフに「伝える」だけでなく、「伝わる」ようにすることが不可欠です。例えば、院長が多忙な中でも、患者さんやスタッフ一人ひとりに丁寧な挨拶を欠かさず、感謝の言葉を伝える姿は、言葉以上にその哲学を雄弁に物語ります。心理学における「社会的学習理論」が示すように、人は他者の行動を観察し、それを模倣することで学習します。院長・理事長が示す「在り方」は、スタッフの行動規範となり、組織全体に温かい「空気感」として浸透していきます。
また、院長・理事長が医療ミスやトラブルに直面した際に、スタッフを責めるのではなく、その原因を組織全体で探り、再発防止策を講じる姿勢を見せることも重要です。このような「失敗を許容し、学びとする」という在り方は、スタッフが安心して意見を発信し、ミスを隠蔽することなく報告できる環境、すなわち「社員が安心して力を発揮できる環境」を創り出します。この「安心の空気感」は、医療現場におけるミスの削減や、チームワークの向上に直結する、かけがえのない透明資産となるのです。
②ドクターチームを動かす「Why」の共有と「一体感」の空気感
最高の医療を提供するためには、医師、看護師、医療技師、事務スタッフといった、様々な職種の専門家が、一つのチームとして機能することが不可欠です。しかし、それぞれの役割や専門性が異なるため、時には意見の相違やコミュニケーションの壁が生じることがあります。ここで重要となるのが、名医たちが実践している、「なぜやるのか(Why)」を共有するマネジメントです。
名医は、手術や治療の前に、チーム全員で患者さんの病状、リスク、そして治療の目的を共有します。このプロセスは、単に情報を伝えるだけでなく、チームメンバー全員が仕事の意義を理解し、当事者意識を持つための「一体感」の空気感を生み出します。この「Why」の共有があるからこそ、チームメンバーは、自分の役割が治療全体の中でどのような意味を持つかを理解し、自律的に判断し、最高のパフォーマンスを発揮できるようになります。
経営戦略論における「共通の目的」の重要性も、これと通じるものがあります。組織のメンバーが、共通のビジョンや目標を共有することで、部門間の壁を越えた連携がスムーズになり、組織全体としてのパフォーマンスが向上します。病院経営においても、院長・理事長が、病院のビジョンを「地域の人々の健康を守る」といった具体的な言葉で共有し、スタッフ一人ひとりの仕事がそのビジョンにどう繋がっているかを明確にすることで、組織に「一体感」という透明資産が育まれます。この「一体感」の空気感は、スタッフのエンゲージメントを高め、チームワークを強化し、患者さんへのより質の高い医療提供へと結びつくのです。
③失敗を「学び」に変える「挑戦」の空気感
医療現場は、常に未知の病や困難な治療に直面します。このような環境で、病院が成長し続けるためには、現状維持に甘んじることなく、常に新しい治療法や技術に挑戦し続ける「空気感」が不可欠です。しかし、失敗が許されないというプレッシャーの中で、スタッフが新しい挑戦をすることに二の足を踏んでしまうケースも少なくありません。
名医は、この「挑戦」の空気感を醸成するために、失敗を恐れるのではなく、それを「学び」と捉える文化をチームに根付かせています。手術や治療で予期せぬ事態が起きた時、名医は決してチームメンバーを非難せず、事後検証の場を設け、何が原因で、どうすれば次回に活かせるかを全員で議論する姿勢を見せます。この「空気感」は、チームメンバーがミスを隠蔽することなく報告し、全員で問題を解決する姿勢を育みます。脳科学的には、人は失敗を恐れると、新しいアイデアを生み出すための創造性が抑制されることが明らかになっています。失敗を恐れずに挑戦できる環境は、スタッフの創造性を刺激し、医療の質の向上や、新しい治療法の開発といったイノベーションへと繋がるのです。
この「挑戦」の空気感を経営に活かすためには、院長・理事長が「新しいアイデアはいつでも歓迎する」「失敗しても、そこから学べばいい」というメッセージを明確に発信することが重要です。この「挑戦」の空気感は、スタッフの「自己成長意欲」という透明資産を高め、病院全体の学習能力を向上させます。
④謙虚さと敬意が創り出す「協調」の空気感
名医は、自身の卓越した技術に奢ることなく、チームメンバー一人ひとりに敬意を払い、謙虚な姿勢で接します。彼らは、医療は一人では完結しないことを深く理解しているからです。この姿勢は、組織全体に「協調」の空気感を生み出し、チームワークを円滑にし、最高の医療を提供するための土台となります。
この「協調」の空気感を醸成するためには、院長・理事長が、自分一人の力だけでなく、スタッフ全員の貢献を認め、感謝の気持ちを伝えることが重要です。手術が成功した際に、名医が自分一人の手柄にせず、麻酔科医、看護師、医療技師といったチームメンバー全員の貢献を称えるように、経営者も、病院の成功がスタッフ一人ひとりの努力によって支えられていることを、日々のコミュニケーションで伝えます。この承認と感謝の空気感は、スタッフの自己肯定感を高め、仕事へのモチベーションを向上させます。
また、フラットなコミュニケーションを促すことも、この「協調」の空気感を育む上で不可欠です。若手医師や看護師の意見にも真摯に耳を傾け、チーム内での建設的な議論を推奨することで、部署や役職の垣根を越えた連携が生まれます。ランチェスター戦略では、弱者が強者に勝つためには、個々の戦力だけでなく、組織全体の連携力や情報共有のスピードが重要であると説かれています。この「協調」の空気感は、中小規模の病院が、大手病院にはない機動力や柔軟性を手に入れるための、強力な透明資産となるのです。
⑤院長・理事長の「在り方」が示す「責任」の空気感
名医の最も重要な特徴は、その揺るぎない「在り方」です。彼らは、患者の命を預かる者としての倫理観や使命感を、日々の行動で示します。この真摯な姿勢が、チームメンバーに「私たちも最高の医療人として振る舞わなければならない」という自覚を促し、組織全体に「責任」の空気感を醸成します。
この「責任」の空気感を経営に活かすためには、院長・理事長が、病院の理念やビジョンに対する強い想いを日々の行動で示すことが重要です。例えば、院長が多忙な業務の中でも、患者さんの容態を最後まで見守り、最善の治療法を模索する姿勢を見せることで、スタッフは「自分たちも患者さんの命に責任を持つ」という自覚を強く持つようになります。この「在り方」という透明資産が、組織全体の「責任」の空気感を醸成し、医療の質の向上へと繋がります。
また、この「責任」の空気感は、患者さんへの対応にも現れます。スタッフが、患者さん一人ひとりを大切にし、真摯に向き合う姿勢は、患者さんに安心感と信頼を与えます。この信頼は、病院のブランド価値を高め、継続的な受診や口コミでの紹介に繋がります。つまり、院長・理事長の「在り方」という透明資産は、組織全体に「責任」の空気感を浸透させ、それが「患者さんからの信頼」という形で具現化し、病院の持続的な成長を支える基盤となるのです。
<3>命を救う「空気感」を、未来を創る「空気感」へ
名医たちが創り出す「空気感」は、患者さんの命を救い、チームのパフォーマンスを最大化させる、かけがえのない透明資産です。彼らが実践している「安心」「一体感」「挑戦」「協調」「責任」という5つの「空気感」は、病院経営にもそのまま応用できます。
企業における経営者は、いわば「組織という命」を預かるドクターです。社員が安心して挑戦できる「空気感」、自律的に考え行動できる「空気感」、そして全員が互いを尊重し、責任を持って仕事に取り組める「空気感」を意図的に設計し、運用することで、あなたの病院は単なる経済活動の場ではなく、そこで働く人々が喜びと成長を感じられる、生きた組織へと変わります。
名医から学ぶ透明資産経営は、目先の利益だけでなく、この見えない「空気感」という資産をどれだけ大切に育めるかが、未来の企業価値を決定づける時代において、最も確実な羅針盤となるでしょう。
―勝田耕司
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