コロナウィルス禍を契機にしたテレワークの普及で、街の様相は大きく変わりました。そのひとつが「自動販売機の減少」です。
オフィス街ではとくに顕著で、仕事中に一服といった需要がなくなった結果、缶コーヒーなどソフトドリンクの自動販売機が激減しました。そのことは飲料各社の業績にも大きく影響しています。
一方で、増えている自動販売機もあります。それが“食べ物を売る”自動販売機です。とくに目につくのがラーメン。
煮干しラーメンで有名な「ラーメン凪」が展開する冷凍ラーメン自動販売機「RAMEN STOCK 24」はすでに東京都内に70ヵ所を設置しています。全国の人気ラーメン店の味を24時間楽しめるのが売りです。
もうひとつ、急増している商材が餃子でしょう。これは自動販売機の他に、無人販売店「餃子の雪松」が急速に店を増やしたことで注目を集めました。もともとは群馬・水上の温泉街にある食堂だった「雪松」が、売れ筋メニューの餃子の直売所を設けたのがスタート。
コロナ禍の巣籠り需要を受けて、販売ショーケースのみを置いた店を出したところ思いがけないヒットになりました。代金は店に置いた箱にお客様自ら入れてもらうという“性善説”に基づくシステムで、日本ならではの業態としても話題になりました。
長引くコロナ禍で外出や移動が制限されるなかでも、外食ならではの味を提供したい。この考え方には賛同できるし、そのために創意工夫を重ねることは大事だと思います。
ただ問題は、本当に“外食ならでは”のものを提供できているのか!?ということです。
外食が提供しているものは、単に「モノ」にとどまりません。ゆきとどいたサービスや居心地のよさ、その場で調理し提供することによるライブ感も商品価値を構成する重要な要素です。
ツーオーダーゆえにお客様をお待たせすることになりますが、その間に漂ってくる匂いや調理の音なども、お客様の期待感を高めるという点で高い価値を生み出します。お店に滞在している間にスタッフと交わす会話も同様で、それが大きな来店動機にもなります。
こうした経験を通じて、お客様の中に「あの店に行けば、こういう体験ができる」という刷り込みができていきます。それこそが店のブランドをつくり、「透明資産」になっていくのです。
自動販売機では、こうした体験はできません。そうなるとお客様の評価は「美味いか不味いか」だけになりますが、つくりたての料理とまったく味が出せるかといえば、それは不可能です。
結果として店のブランド力を低下させることにもなりかねません。販路の拡大は、常にこうした危険をはらんでいると認識すべきでしょう。
ー勝田耕司
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