私がこのコラムで、SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)について初めて取り上げたのは2020年の初頭、コロナウィルス禍が深刻化する直前のことでした。
以来2年半以上が経過し、いまやSDGsはあらゆる産業にとって経営の重大テーマになっています。外食業界で言えば、世界から飢餓をなくす取り組みや、プラスチックの使用抑制、フードロスの削減といったことが話題にのぼります。
ただ、それらは外食業界が以前から継続して取り組んできたことです。SDGsが人類の未来を左右するテーマである以上、より踏み込んだ対策や、新しい視点が不可欠だと思います。
いま重要なことは、世界が新しい対立の時代を迎えているということです。ロシアのウクライナ侵攻、中国の周辺国への圧力などが代表ですが、そうした国家間の対立にとどまりません。個人レベルでも感情的に対立して関係がギクシャクしたり、他人の権利を阻害するような事態が起こっています。
そうではなく、あらゆる人々が共存し、お互いを尊重し合いながらよりよい社会をつくる。これこそ、SDGs実現につながる取り組みです。そして、もっとも消費者に密着したビジネスである外食こそ、その担い手になるはずです。
その点で注目したいのが「スターバックスコーヒー」です。スターバックスは全世界共通の取り組みとして「サイニングストア」を展開しています。
これは聴覚障害を持つ人がパートナーとして働き、手話を主なコミュニケーション手段として運営する店のことです。多様な人々が自分らしく過ごし、活躍できる場所の実現をめざすというスターバックスの「ダイバーシティ&インクルージョン」を象徴する取り組みです。
日本では2020年6月、東京・国立のnonoma国立店が国内初のサイニングストアとしてオープンしました。それから2年以上が経過したいま、ここから新しい「人の輪」がどんどん広がっています。
スターバックスはこの店をオープンするにあたり、社内で手話や筆談などを学ぶプログラムを実施してきましたが、そのノウハウを生かした「手話講座」に地域を巻き込んで取り組んでいます。
店舗が入居する駅ビルの運営母体であるJR中央線コミュニティデザインでは、社内の勉強会にスターバックスのパートナーを招き、月2回のペースで手話講座を開いています。これによって駅全体が、聴覚障害を持つ人も利用しやすいものになるとともに、新しいコミュニケーションの輪が生まれているのです。
このような場所になってこそ、外食は本当の意味で地域に根付いくことができます。そうしたお店はまさしくSDGs実現に貢献する、お客様の笑顔=透明資産に満ち溢れた店になるはずです。
ー勝田耕司
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