回転ずしチェーン「かっぱ寿司」を展開するカッパ・クリエイト㈱の前社長が、かつて在籍していたライバル社の営業機密を不正に持ち出した容疑で逮捕された事件は、外食業界を大きく揺るがしました。
かつてと比べて人材の流動化が進んでいる現在、営業機密をいかに守るかは個人のモラルに頼っているだけでは解決できない問題になっています。対応を誤れば会社の信頼を傷つけるだけでなく、チェーンのブランド力を大きく損なうことにつながります。
同じ回転ずしの業界では、最大手である「スシロー」で不祥事が相次ぎ、既存店の売上げ低迷を招きました。これもまた、消費者の信頼を裏切ることがどれだけ深刻な結果を招くかを示す例です。
以前に本コラムでお伝えしたように、常にお客様の期待を上回る価値を提供していくことが信頼を得るための絶対条件であり、それがブランド力をつくっていきます。
外食をはじめとする食関連業界がかつてない“値上げの時代”を迎えている今、いかにブランド力を高めていくかが生き残りの鍵になっているといえるでしょう。
その点で注目したいのが、回転ずし大手「くら寿司」の取り組みです。いわゆる“低利用魚”の商品化第1弾として、「ニザダイ」をネタにした寿司を9月から販売開始しました。
ニザダイは海藻を食い荒らすため駆除の対象になってきた魚ですが、独特の臭いがあり食用に適さないため廃棄されてきました。
それを、キャベツを与えて養殖することで臭いを抑えることに成功したのです。飼料のキャベツも廃棄予定だったものを与えているとのことで、フードロスをなくしSDGsの実現につながる取り組みといえます。
“持続可能な食”をどう確保するかが世界的な関心を集めている昨今、くら寿司のブランド力を高めるうえでも大きな意義を持っています。
消費者の食に対する関心は、単に「おいしいかどうか」だけでなく、そのおいしさをいかに実現しているかに移ってきています。そして何より重要なのは、それが“正しい方法”によって実現されていることです。
不正をしたり、消費者を欺いたりするのではなく、真っ当な企業努力によって価値をつくらなければなりません。その点でもくら寿司の取り組みは注目すべきものといえます。
くら寿司もこの10月から価格を引き上げましたが、最低価格を110円から115円とする一方、220円の商品を165円に引き下げました。また、新しい自動会計システムを導入し、よりスピーディにストレスなく会計できるようにもしています。
いかに顧客の立場になって新しい価値をつくっていくか。その企業姿勢こそがくら寿司の透明資産であり、ブランド力の源泉なのです。
ー勝田耕司
この記事へのコメントはありません。