お酒を飲めない(飲まない)人すなわち「ゲコ(下戸)」と、飲む人すなわち「ノミ」が一緒に、楽しい時間を過ごせるようにする。この「ゲコノミニケーション」が、これから飲食の場においてあるべき人と人との関係性です。そして、飲食店こそがゲコノミニケーションの担い手になるべきだと思います。そこには間違いなく、withコロナの時代に飲食店が提供すべき価値があるからです。
終盤にさしかかった東京オリンピック。連日、日本人選手の奮闘が伝えられ、そのことは同じ日本人として本当に誇りに思います。多くの人がそう感じていると思いますが、一方で素直に喜べないという人もいるのではないでしょうか。
その理由は、このオリンピックが「分断」を余儀なくされているためだと思います。競技は無観客で行なわれ、選手と観客が時間と場所を共有し喜びを分かち合うことができない。海外から訪れる人々との交流の機会も持てません。これまでオリンピックが長い時間をかけて培ってきた大切な価値が、今回は残念ながら失われてしまったのです。
オリンピックに象徴されるように、あらゆる人が調和し、差別のない社会を築くことは人類共通の目的であり、普遍的な価値です。大げさに聞こえるかもしれませんが、ゲコノミニケーションの実践によって、それと同じような価値が生まれると思うのです。
考えてみれば、食事は国籍や生活環境の違いを問わず人類共通の楽しみであり、その時間は誰にとっても大切なものです。そういう大切な場において、どのような形であれ分断が起こっているとすれば、そこでは大きな価値が失われているといえるのではないでしょうか。つまり、ゲコノミニケーションを実践することは、食事本来の価値を取り戻すことにつながるのです。
ですから、飲食店におけるゲコノミニケーションの出発点は、お店の経営者やスタッフが飲食店の役割とは何かをあらためて確認することです。その役割とは、人類共通の楽しみである食事を、誰にとっても快適な、疎外感を感じることのない空間で提供することです。この空間とは、単に立地や設備をどうするかにとどまらず、商品やサービス、お店の雰囲気などすべてを含んでいます。
「ユニバーサルデザイン」という言葉があります。建物を設計したり製品を開発するうえで、誰にとっても使いやすいものをめざすという考え方ですが、これこそ飲食店がゲコノミニケーションを実践するために不可欠です。では、食のユニバーサルデザインを実現するためには、具体的にどのような取り組みが必要なのか。そして、これが私が提唱する『透明資産』経営にどうつながるのか。それを次回から考えていきましょう。
ー勝田耕司
この記事へのコメントはありません。